第2話

褒め上手
私が男の顔を凝視したまま、一瞬、時が止まった。
笹良 直
笹良 直
……っ、ぎゃー!!
優木 景久
優木 景久
うわっ!

私は跳ね起きて、壁際へと慌てて逃げる。


男は私の悲鳴に驚き、目を丸くしていた。
笹良 直
笹良 直
ふ、ふ……不審者!
優木 景久
優木 景久
えっ、俺が見えるの!?

互いの声が重なった。


私は両足をガクガクと震わせながら、なんとか身構える。
笹良 直
笹良 直
(今、「俺が見えるのか」って、聞いた……?)

数秒間、警戒を怠らずに男の姿を観察してみる。


彼の足元がうっすらと透けていることに気付いて、私は胸をなで下ろした。
笹良 直
笹良 直
なんだ、紛らわしい……。
人間じゃなかった。
よかった~

相手が人間じゃないのなら、ひとまず危険は去った。


一息つこうと腰を下ろしかけたところで、私はふと気付く。
笹良 直
笹良 直
……いや、よくないし!
優木 景久
優木 景久
あはは。
だろうね

自分で自分にツッコミを入れるなんて、さぞかし滑稽こっけいだろう。


私はもう一度、まじまじと男を確認した。


何年もずっと幽霊と関わることを避けてきたのに、遂に〝見える〟ことを幽霊相手に言ってしまったのだ。


彼は、私にどう関わるつもりだろうか。
笹良 直
笹良 直
(悪意はなさそうに見えるけど……。
そう装ってるだけかもしれないし)

自分に危険が及ぶ可能性も考えながら、どう対処すべきかで頭の中がパニックになる。


そして、出てきた言葉は――。
笹良 直
笹良 直
い、イケメンだ……

単なる感想だった。


瞳は青と緑の中間というのか、綺麗な色をしていて。


きちんと美容室に通っていたんだろうなと思わせる、ふんわりとした髪型。


目鼻立ちも整っているし、まごうことなき美形だ。
優木 景久
優木 景久
うん、よく言われる。
ってか、俺のこと見える人間に会えたの、初めてだ

彼は満面に笑みを浮かべてそう言った。
笹良 直
笹良 直
(イケメンは否定しないんだ……。
すごい自信)

私は苦笑いをしつつも、少しだけ彼に興味を持った。


あちこちで遭遇するような幽霊と違って、彼はとても明るいから。
笹良 直
笹良 直
イケメンさんはどうしてここに……?
優木 景久
優木 景久
ここ、誰も住まなそうだったからさ、しばらく身を隠しているんだ
笹良 直
笹良 直
……なるほど

そんなところに引っ越してきてすみませんね、と心の中で呟く。
優木 景久
優木 景久
俺は優木ゆうき景久かげひさ
△△大学医学部の一年。
そっちは?
笹良 直
笹良 直
笹良なお、です。
○○大学の薬学部に通ってます。
この春から二年生です
優木 景久
優木 景久
マジか。
ほぼ歳も一緒じゃん。
お互いに呼び捨てでいいでしょ?
笹良 直
笹良 直
……は、はあ。
まあ

いつの間にか、相手の話のペースに巻き込まれている。
笹良 直
笹良 直
(これは、「今後もよろしく」とかいうパターンだ……!)

どうにかここを出て行ってもらう方向で、話を進めなければいけない。
笹良 直
笹良 直
あの、どうして幽霊になったかは覚えてる?
優木 景久
優木 景久
ああ、それなんだけどさ。
俺、いつ死んだのかも記憶にないんだよな。
気が付いたら、この街の辺りをさまよってた
笹良 直
笹良 直
じゃあ、亡くなった理由を探しに行ったりは……
優木 景久
優木 景久
外に出るとさ、他の幽霊にしつこく絡まれるんだよ……。
そういうの面倒で。
ここならボロいし、誰も来ないだろうって思って潜んでたわけさ
笹良 直
笹良 直
あはは……

もう、苦笑いするしかない。
優木 景久
優木 景久
それよりもさ。
ここ、かわいい女の子ひとりじゃ危ないんじゃない?
笹良 直
笹良 直
えっ……!
いや、かわいいだなんて、そんな……

イケメンに褒められるというのは、たとえお世辞でも嬉しいもので。


苦笑いから一転、私の顔は照れ笑いに変わっていた。



【第3話へ続く】