呪霊の姿に呆気に取られていた悠仁だが、我に返り愛莉の元に駆け寄った。
腰を抜かしていた愛莉の後ろには恵が放心状態になっていたのに気づいたが、悠仁は愛莉の腕を掴み立ち上がらせた。
曖昧な愛莉の返事に恵は愛莉に視線を移した。
屠坐魔は使っていない。残穢も残っていない。
じゃあ、どうやって·····。
·····なにで祓った!?
あの呪霊の濃度の濃さを考えると低級じゃない。
2級の中の上。
彼女が祓えるレベルじゃない。
しかも、祓った·····のか?形が残っている。屠坐魔で祓ったとしても、姿形消えるはずなのに
なぜ、まだ残っている·····?
呪力のないもので倒したから·····?
悠仁の声にハッとさせられ、顔を上げた。
今、ここで考えててもキリがない。
これは隠すも何も、五条先生に報告しないといけなくなった。
コンビニの入口に悟と野薔薇が立っていた。
恵以外がコンビニ跡から出ていくと、悟は恵の前に立った。
ピクリとも動かない呪霊のところに足を進め、顔を近づけて観察をする悟は
後ろを振り返ると恵が何とも言えない表情で悟を見ていた。
イラッとした恵は悟を睨んだ。
悟は呪霊の残骸をじっくり見ると、
吹き飛ばされた勢いで全く周りの空気や状況に追いつかなかった。呪力を感じ取れば、彼女が術式を使ったのだろう、と分かるのだが。
信じたくはないが。
中を見渡し、何もない事を確認するとコンビニ跡を後にした。
廃れた駐車場のところで悠仁達は悟と恵が出て来たのを見ると駆け寄った。
彼女に何かの力があったとして、それは喜ばしい事なんじゃないのか。
高専に居れる理由になる。
でも、もしそれが良くない力だとしたら·····。
愛莉は悟に屠坐魔を返した。
なんだろ·····。
何であの時私の目の前の呪霊が吹き飛んだの?
何が起こったのか分からない。
一番分からないのは、何で五条先生はウソをついたの·····。
伏黒君は居なかった。加勢なんてしていない。
どうして伏黒君も何も言わなかったんだろ。
私が何かをしたから、あの呪霊が吹き飛んだ。
私·····何かがおかしい·····?
目の前の呪霊を前に私は死に直面した。その後いきなりその呪霊は私の目の前から居なくなった。
あれ·····。
あの光景前にもどこかで·····。
·····どこだっけ?
我ながら棒読みのセリフ。
でも、お腹空いたのは間違いじゃない。
悠仁、野薔薇
「「イエーーイ!!」」
ハイテンションの2人とは別に恵はため息をつきつつ2人の後ろを歩き、愛莉は悟の後からついて行った。
小さい声で話しかけられ愛莉は顔を上げた。
前に居る3人に聞こえない声で、
少し安堵したのか微笑んだ。
悠仁と野薔薇が恵を捕まえて、テンション高く伊地知が居る車まで歩いて行った。
高専に居られる理由になれる。
悠仁と一緒に居られる。
はずだったのに·····。
数日後、4人で歩いている所を悟に引き止められた。
心配そうな顔していた悠仁だったが、恵と野薔薇に引き連れられて悟達から離れた。
学長の居る所まで歩いていた悟と愛莉だったが、悠仁達が見えなくなったのを確認すると悟はその場に立ち止まった。学長の所までまだ距離があるため、愛莉は不思議そうな顔で悟を見上げ立ち止まる。
何を·····言ってるの·····?
渡り廊下にいるため、外からの風が2人に吹いて愛莉の髪が顔を隠した。
いきなり物騒な事を言う悟に無礼な事を言うのはよくあるが、今回は言っていい事と悪い事がある。
何でぶり返すの?
覚えてないって言ったのに·····。
電車·····。
····電··········車·····?
「お母さん、どこ行くの·····?」
子供の声に愛莉は後ろを振り返った。
まただ·····。
また子供の声·····。
「·····お母さん?」
「とても良いところ。今から良いところに行くの。」
良いところ·····?
声と共にどこかの場所·····。
大人の手を繋いだ子供の手·····。
誰の·····?
ここは·····。
顔を上げたら·····
·····電車のホーム。
「愛莉も父さん達と行こうか。」
頭を抱えだした愛莉に悟は眉をひそめた。
やだ·····どこ行くの·····?
お母さん!お父さん!
行きたくない!!
記憶の断片が少しずつ頭に流れてくる。
今まで思い出さなかったのに·····。
電車が近づく音が聞こえる。
やだ!
いやだっ!!
そっちに行ったら·····
行ったら·····?
·····死ぬ·····。
死ぬ!死ぬ!死ぬっ!!!
死·····しかない。
「本当に、あなたは言うこと聞かないんだから。なにをやってもダメ。」
「母さん、そう言うな。愛莉は父さん達のために頑張ったんだよな?」
「だからお仕置してあげたでしょ?良い子にしなさいって。」
家に居たくなかった。
だって幼稚園だと友達も居るし、叩かれる事もない。
笑ってれば、皆笑顔で居てくれた。
お母さん達の迎えが遅かった日も帰りたくなかった。嬉しかった。悠仁君も一緒におじいちゃんと待ってくれたけど、このまま幼稚園に住みたかった。
なのに、他人には良い顔するお母さんが迎えに来ると地獄だった。
大好きな悠仁君も帰って、明日にならなきゃ会えない。
でも、お母さん達とは一緒に死にたくない·····ッ!!
━━━━━━━·····死にたく·····ないっ!!!
瞳が赤くなり、2人を睨む。
子供の異常に気づき、2人は目を見開く。
⟬ ⟬ オマエは今までよく一人で耐えたな ⟭ ⟭
━━━━誰·····?
⟬ ⟬ もう二度と苦しい思いをさせないよう約束しよう ⟭ ⟭
━━━━どこから声が·····。
⟬ ⟬ こやつらはオマエにとって、害に値するな ⟭ ⟭ ⟭
━━━━頭の中·····?
⟬ ⟬ 道連れとは洒落た事をするものだ ⟭ ⟭
「あなた、誰!?!愛莉じゃないわね!!」
⟬ ⟬ 生きる価値のない者か····· ⟭ ⟭
⟬ ⟬ 逝くなら逝けばよいだろう ⟭ ⟭
━━━━え·····。
怯えた目をした2人に、
⟬ ⟬ オマエらだけだがな ⟭ ⟭
電車の音が近づき、
⟬ ⟬ フッ飛べ ⟭ ⟭
━━━━━あ·····。
「え·····」
2人の体は風に押されるように線路に飛ぶ。
その直後、スピードを落とす間もなく電車が2人の体を撥ね飛ばした。
頭を抱えたまましゃがみ込んだ愛莉に悟はスマホを取り出し電話をかけだした。
姿が見えていなかった悠仁達だが、愛莉の叫び声に驚いて顔を出し、愛莉の様子に異変を感じ駆け寄った。
2人の体が目の前でバラバラに
少女の瞳は赤から元の色に
そんな瞳には2人の体の血飛沫と共に一部が映る
咄嗟的に嘔吐してしまい、悟は背中を擦り繋がった電話の相手に叫んだ。
愛莉の目、耳には悟の声も、悠仁達の姿も見えず、脳内から2人の死んでいった姿がいつまでも離れなかった。
悟は恵の言葉に肯定も否定もしなかった。
野薔薇が自販機のある場所まで走って買いに行く。
私が·····。·····私が·····っ。
·····私が·····っ!!
いつまでも
2人の驚愕の表情と
電車に轢かれた後の惨劇の名残が
頭の中を巡っていた·····。
瞳から大粒の涙が溢れ、息をするのにも呼吸がしづらい。
私が·····っ!!
━━━━━━·····お母さんとお父さんを·····っ
殺した····━━━━━━━━
愛莉は意識を失い、静かに倒れた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。