もう、前の悠仁には戻れない。
アイツ·····両面宿儺が悠仁の中に居る。
どうやって、悠仁を守る?
考え事をしていたせいか、悠仁の声にハッとさせられ顔を上げた。
大丈夫なわけない。
これから悠仁は·····?
ずっと、死ぬまで宿儺と一緒に居なければならないのか·····?
私は·····?
これからどうしたらいい·····?
悟は悠仁の額に人差し指と中指をトンッと当てた。その直後、意識が無くなった悠仁は悟に倒れこむように動かなくなった。
心配そうにしてるが、目つきは悟を睨んでいた。
処刑って、死刑·····?
今日悠仁と初めて会って、そう時間も経ってないのに、こうやって悠仁を思ってくれてる人もいる。
嬉しそうに笑った悟は悠仁を片腕で捕まえながら、親指を立てた。
宿儺の器になったかもしれない悠仁を私はどう守ればいい?
見た目は変わらないし、いつもの悠仁なのに·····。
私の目には
別人になった悠仁しか映らない·····。
我慢していた涙がポロポロと頬を伝う。
悟は悠仁を片腕でつかんだまま、愛莉に近づき頭に片方の手を置いた。
·····もしかしたら、憂太と同じ類かな。
この子には何の呪力も感じない。
だけど、さっきのは·····。
·····下調べが必要かな。
愛莉の頭をわしゃわしゃと掻き乱して、ポンポンッと軽く叩いた。
悠仁に助けられ、被害に遭わないよう安全なところで座って避難していた佐々木達を指差し、
穴がガッツリ空いた校舎を指差し、恵に視線を移した。
二人のやり取りに愛莉が手を上げる。
悟の自信満々な一言に愛莉は前を見据えた。
頭を下げた愛莉に二人は目を点にしていたが、悟はニコッと笑った。
恵はチラッと愛莉を見て、判断に迷っていた。
ここはまだ渡り廊下の頭上。通常じゃ簡単に降りられない。
悟に抱き抱えられ、連れて来られたが連れてきた本人が居なくなったら降りられなくなる。
再び悟につかまり降ろしてもらったが、片腕にはずっと悠仁を抱えている。華奢な体つきに見えるが、相当な力持ちだ。
悟の後ろで軽々と恵は飛び降りてきた。
愛莉も同じ事を思っていた。佐々木達をそのままにする事は出来ない。
愛莉の方を向き、
二人を見てニヤニヤが止まらない悟だった。
「よろしくねー。」と言いながら、悟はその場から居なくなった。
さっきそういえば撮ってたな、と思い出し笑ってしまった。
その姿に恵は微笑んだ。
さっき会ったばかりなのに悠仁を庇ってくれて、自分も怪我してキツイはずなのに、終始怪しい教師よりも信用出来そうな彼だったから信じてみようと思った。
ここまで気をつかって優しくしないよ、普通。
校門入口に黒い車が止まり、そこから声が聞こえた。
さっき言ってた高専からの遣いが来たようだ。
校門まで歩こうと踵を返すが、恵はふらついていた。頭をぶつけ、脳震とうを起こしていた。
恵の制止を振り切り、愛莉は肩を貸し高専関係者のとこまで歩く。
「大丈夫ですか?」
高専関係者なのか、スーツ姿の男性が恵の肩を支えた。
「分かりました。」
高専関係者は携帯を取り出し、警察に通報した。恵に代わり通報内容を説明する。
悠仁·····大丈夫だよね。
私は私に出来る事を頑張るよ。
悠仁も
宿儺に負けないで·····━━━━━━
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。