恵と愛莉は家の近くにあるコンビニでおにぎり、サンドイッチとお茶を買い、車の往来の邪魔にならない場所で食べていた。
コンビニまで歩いて行く間、家の中であった事もあり、気まずく何も話せなかった恵だが、意を決して話しかけた。
持っていたペットボトルのお茶口に含んだ。
二人で堪えず笑い、
冗談で怒ったフリをすると、恵は微笑んだ。
立ち上がり、自分に気合いを入れるため頬を叩いた。
助じぃなら言いそうだ。
想像が出来そうでつい笑ってしまった。
昨日、けが人を運んだ病院が助じぃがお世話になっていた病院だったため、その際看護師さんから聞かれていた。
今後どうするのか。葬式するのか、しないで火葬式にするのか。
悠仁だったら助じぃの意思を継いで火葬式にすると分かってた。だから悠仁が翌日帰って来なくても、悠仁が帰ってくるまでは病院で待ってもらうようお願いした。
どんなに馴染みのある病院でも遺体をそう長くは置いとけず、もって3日が限界だった。だが幸い翌日には悠仁は帰ってくる。
すぐさま病院には連絡を入れ、その関係で火葬場にも連絡がいっている。
恵のポケットで携帯のバイブが鳴り、画面を確認し、すぐさま耳に当てる。
悟の電話から悠仁の声が叫ぶ声が聞こえる。
⦅伏黒となんで愛莉二人っきりなんだよ、先生!!ちょっと代わって!!⦆
⦅ちょっと五条先生!代わってって!!⦆
恵の携帯から悠仁の声が聞こえ、愛莉は胸を撫で下ろした。
·····いつもの悠仁だ。
悠仁を無視して、恵は電話を切った。
恵も立ち上がり、昨日居た病院に二人で向かった。
歩いて数分のところに杉沢病院があり、これだけ大きい病院であれば、すぐ見つけられたはずだったのだ。あれだけ昨日必死に探していた自分の苦労はなんだったのか恵は落胆した。
病院の入口から入ってすぐが総合受付の待合なのに一番目立つ悟すら見つからない。
二人で似たような事を言い、目を合わせ笑った。
「ホントに。」と笑いながら、恵と愛莉は息抜きが出来る、病院の中庭に向かって歩いて行くことにした。
恵と愛莉が総合受付の待合から離れた同時刻、悠仁と悟は看護師と話していた。倭助がお世話になっていた看護師だ。
死角になった場所に居たため、恵達には見えていなかったのだ。
「悠仁君、これから大丈夫?」
「火葬式にするんでしょ?」
「昨日、愛莉ちゃんが来て、葬式をせずに火葬のみの火葬式にするって。悠仁なら同じ事を考えるだろうからって。助じぃ?虎杖さんならそうしろ、って言うだろうって言ってたから、火葬場には連絡してあるけど·····良かったのかしら?」
「そう。愛莉ちゃんと頑張ってね。」
看護師に深く頭を下げ、悟とその場を後にした。
院内をウロウロしても用事がない場所に行くハズがないので、中庭や売店、休憩出来る待合スペース辺りを探す事にした。
ニヤニヤしている悟を見て、悠仁は目を細めた。
悠仁に問い詰められた悟だが視界に恵達が見え、悟は売店側から方向を変えた。
手をヒラヒラと振り、悠仁は中庭へと歩いて行った。
携帯を取り出し、恵に電話する。
強引に通話を切り、ポケットに携帯をしまった。
自ら電話をかけたが、悟の声は誰にも聞かれず静かに消えていった。
中庭にあったベンチに座って待っていると恵の携帯が鳴り誰かと数分話していた。
やり取りからして、悟だろう。
恵は立ち上がり、病院出口側に歩いて行った。最初の待ち合わせと真逆な場所なため愛莉は恵の背中を見て、振り回されてて可哀想だな、と同情しながら目で追った。
愛莉が持っていたペットボトルを飲んで一息ついていると、見慣れた姿が見えゆっくり振り返った。
私の大好きなあの笑顔。
いつもの悠仁だ·····。
いつも一緒に
いままでと変わらない
会いたかった
私の大事な人·····━━━━━
顔を見て安心したと同時に涙腺が緩み涙が溢れ、悠仁がボヤけて見えなくなった。
今まで見たことない愛莉の様子に悠仁は焦って駆け寄り、どうしていいのか対応に困惑していた。
しっかりしてるアイツは俺より強い。
倭助の言葉を思い出し
だが、中身は脆い、弱い。
守ってやれんのはオマエだけだ。
子供のように人目を気にせず泣く愛莉を見て、どうしたらいいのか困り、悠仁は愛莉を抱きしめた。
最初に愛と会ったのは幼稚園の頃で、めちゃくちゃ笑う子だった。
砂遊びしたり、泥だらけになっても、洋服が汚れて嫌がる女の子が居ても愛は違ってて。男の子の輪にも入って、先生にも近所の人にも人見知りもなく、笑顔が絶えない皆に愛されてた女の子だった。
それが突然、幼稚園を辞め、愛が園から居なくなった。
家庭の都合でって先生から聞いてたけど、後に愛の両親が事故で死んだって聞かされた。
その後、児童養護施設に預けられ、愛とは小学校で再会した。
でもあの時の愛とは別人だった。
表情に覇気もなく、笑顔もなく、久々に会って当時嬉しかった俺も色んな事を話しかけたけど、何も返事もなく、頷きも、目線すら合わない。
生きる屍のように、ただ息をしてそこに居るだけ。
笑顔で笑うあの時の君はそこには居なかった。
俺が小学2年になった年の肌寒くなってきた10月下旬頃だった。
裸足で夕方歩いていた愛の姿を爺ちゃんと見つけた時は迷うことなく声かけた事を覚えてる。声をかけても相変わらず愛は反応なくて。
でも、俺は冷たくなった愛を抱きしめた。
「よしよし、もう大丈夫だよ。」
頭を撫でたら、急に愛泣き出して、今度は俺がビックリして泣き出して。
爺ちゃんが二人とも頭を優しくも暖かい手でポンポン叩いてくれて。
「俺と一緒に暮らそう!」
なんでか分からないけど、あの時とっさに俺は愛に言った。
愛はビックリしてたけど、その時久々に愛の笑顔が見れた。俺嬉しくて後ろを振り返ったら俺がとっさに言った言葉に爺ちゃんビックリして固まってた。
後々聞いたら、心臓止まったとか話してたけど、養子とか面倒な手続きとか、児童養護施設との話し合いで嫌々そうに俺のせいで付き合ってくれたけど、決して爺ちゃんは嫌味は言わなかったし、愛が来ても俺と同様孫として接してくれて可愛がってくれていた。
それ以来、愛の泣き顔は見ていない。
テレビを見てて、感動したりして泣くことはあっても、爺ちゃんが死んでも泣き叫ぶとかじゃなくて、静かに泣いて·····。
こんなに泣く愛を見たのはあの時以来だったかもしれない。
愛莉を抱きしめる腕に力が入った。
ごめん、爺ちゃん。
俺、爺ちゃんに言われた事守れなかった。
愛を泣かせて、寂しい思いさせて。
悲しませて·····。
俺、愛は強いと思ってた。
でも、違ったよ。
俺、間違ってた。
愛莉を守るよ、爺ちゃん。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!