現在の時刻、夜中。
宮城県仙台市
杉沢第三高校
一人の影が学校に現れる。
電話の相手先、五条悟に言われた通り伏黒恵は百葉箱を開ける。
家庭科準備室を心霊現象研究会の部室として、3人の生徒が出入りしていた。
心霊現象研究会のメンバー、佐々木と井口は頷いた。
彼等の手の先にはひらがな表が書かれた紙が置かれ、人差し指で小銭一枚を3人で押さえていた。
3人が押さえた小銭はゆっくり動き、「くりおね」を表した。
悠仁&佐々木&井口
「「「ぶはははは!クリオネだってぇー!!雑ッ魚!」」」
ドアを勢い良く開けると、生徒会長が般若顔で現れた。
その後ろには飽きれて立つ少女一人。
会長の後ろから悠仁の幼なじみ、茅愛莉が教室を見渡しながら入ってきた。
愛莉の前に立ち塞がり、メガネを持ち上げ3人を睨んだ。
バンッと分厚い書類を机に置いた3人は会長にガンを飛ばすよう不気味に笑う。
3人はラグビー場が閉鎖されている理由がおかしいと言うのだ。
会長は利用者の多くが体調不良になり、入院していると説明したが、オカ研は否定。
彼らが体調を崩す直前奇妙な物音や声を聞いている、と。
そこから、佐々木は30年前の新聞記事を切り抜いたファイルを会長に見せた。
3人の勢いは消え、落胆した姿が残った。
佐々木&井口
「「虎杖ぃ~」」
「俺が書き換えた!」
ドアに陸上部顧問、高木が立っていた。
「虎杖、全国制覇にはオマエが必要だ。」
「駄目だ!」
「茅!」
「お前は生徒会という権力を使い、虎杖を有利に回そうと手を使っているだろ!」
「だが俺も鬼ではない!正々堂々陸上競技で勝負だ!」
「俺が負けたらオマエのことは諦めよう。だがしかし!!俺が勝ったら·····」
ブーブーッとポケットに入ったスマホのバイブが反応し、愛莉は取り出した。
部室内は色んな意味で暑苦しく、部室内から出てすぐの踊り場の階段に移動すると、鳴っていたスマホに出た。
「あ、愛莉ちゃん?悠仁くん一緒に居る?」
病院からの電話で、担当してくれている看護師さんだった。
電話で必要な物を持ってきてくれ、という内容だった。
手帳を取り出し、手帳の空欄の部分にメモをし、悠仁に渡すため破った。
電話を切り、さっき居た部室に戻った。
部室内は誰一人居なくなっており、教室の窓から校庭を覗いた。
既に、悠仁含め陸上部顧問達も集まっていた。周りにはガヤの他の部活をしていた生徒達が囲んでいた。
ふと、さっき話の話題になっていたラグビー場を見ると、人が一人立っていた。
ラグビー場をうろついていた恵は周りを見渡した。
恵の頭上には得体の知れないモノがいた。
頭を抱えながら、立ち入り禁止と書かれた規制紐をまたぐ。
頭を抱えながら階段を登り、スマホを取り出した。
すぐ隣に在るようで遥か遠くにあってもおかしくない。
恵のスマホ画面には手のひらサイズの古びた箱があり、中にはお札がビッシリと貼られ包まれたモノが写し出されていた。
遠くからガヤの声が響いており、恵の足はそちらに向かった。
校庭では人だかりが出来ており、その中心には陸上部顧問の高木と悠仁がいた。
「陸部の高木と西中の虎杖が勝負すんだよ!」
「種目は!?」
「砲丸投げ!」
14mの記録を高木が叩き出した。
少し離れたところにオカ研のメンバー2人も立っていて、心配そうに悠仁達を見ている。
ひそひそと話してる2人に愛莉が駆け寄った。
砲丸持って悠仁は陸上部顧問の高木に声をかけた。
「ん?まあこの際それでファウルはとらん。」
(すまんな、短距離選手のオマエに力勝負を挑んで·····。だが、これで俺がどれだけ本気が伝わ)
腕を組んでしんみりと高木が自己陶酔しているうちに悠仁は自己流で投げた。
「·····30mぐらい。」
近くにいた生徒達が適当に応えたが、悠仁が投げた砲丸がサッカーゴールのゴールポストにめり込んでいた。
悠仁が投げた場所からは約30mぐらい。距離は間違えていなかった。
高木は目が点になったまま固まっていた。
ニコニコして2人は悠仁を見て、デレデレしていた。
さっき書いたメモをポケットから取りだし、悠仁に渡そうとしたが、既に居なくなっていた。
今から追いかけても間に合わない。私が準備して持って行った方が早い。
2人に頭を下げ、悠仁のカバンと自分のカバンを取りに校舎に戻った。
悠仁の砲丸投げを恵はガヤに紛れ遠目で見ていた。
悠仁がこちらに走って来るのが見えたが、見向きもしないで横をすれ違う瞬間。
すれ違う悠仁との間の空気が変わった。
走っていく悠仁に声をかけようと振り返った。
既に悠仁の姿は校門まで小さくなっていた。
「アイツ、50m3秒で 走るらしいぞ。」
「車かよ。」
恵は悠仁と関わりがある人物を探し、声をかけた。
カバンを取りに学校を後にしようとしていた、愛莉に声をかけた。
本校の生徒で見かけた事ない気がする。
他校の生徒だとして、何故ここに·····。
悠仁に用がある、って、アイツ何したのよ!
特級呪物の気配で場所は探せば見つけられるだろうが、一刻も早く見つけなければ民間人への被害が危ぶまれる。
恵は頭を下げ悠仁の後を追うように学校を後にした。
それに何だろ·····。ちょっと、カッコ良かったな·····。
·····じゃなくて!病院!
時計を確認し、愛莉も学校を後にする。
一足先に病院に着いていた悠仁は病院前に買っていた花を取り替えるため花瓶を洗っていた。
ベッドに座り込んでいた悠仁の祖父、虎杖倭助は窓を見つめ悠仁に話しかけた。
バッサリ悠仁に切り捨てられ、倭助は一瞬間を置き、再び息を整えた。
洗った花瓶に買って来た花を入れる悠仁を見て倭助は悪態をついた。
だんだんグチグチと文句を言う倭助に呆れてくる悠仁。
悠仁に背を向け横になった。
倭助に呆れた悠仁は窓枠で花を花瓶にさし花を整えた。
ナースステーションでは頼まれていた物を買い出しに行っていた愛莉が到着し、受付をしていた。
いつもの倭助じゃない雰囲気に悠仁は振り返った。
受付を済ませた愛莉は倭助の病室に行く途中で会った看護婦と挨拶をした。
急に黙り込んだ倭助に悠仁は不審に思った。
イヤな予感がした。
倭助の病室を開けると、悠仁はうつむいて黙って立っていた。倭助を見ると、眠っていた。
何も言わず、顔を上げない悠仁に不安になる。
覚悟決め頭を上げた悠仁の目には涙が溜まっていた。
その姿に愛莉は何が起きたのか察してしまった。肯定したくない自分がいる。
震える手でナースステーションに通じるナースコールに手を伸ばした悠仁は唇を噛みしめた。
「はい、どうされました?」
何も知らない看護婦の声に言葉に詰まった。
自らの口から言ってしまえば認めてしまう。
愛莉はゆっくりと悠仁の元に近づいた。
倭助の表情を見てもただ眠っているだけだ。悠仁が間違えてるだけだ。
「·····虎杖さん?」
そう思いたかったのに。
「·····爺ちゃん死にました。」
愛莉の手にあったコンビニの袋がゆっくりと崩れ落ちていった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。