第21話

笑顔の真実
1,082
2021/10/20 01:00

目を覚ました愛莉の目には真っ白い天井が写っていた。

周りを見る元気はなかったが、見慣れた部屋だったため、自分の部屋だと考える気力のない頭で理解した。


なんで、自分の部屋に横たわっているのか。



五条先生に聞かれた。
·····人を殺した事があるのか。



あるわけない。

そう、断言したかったのに·····。



なんで、今まで思い出さなかったんだろう。
なんで、今までこんな大事な事を忘れていたのだろう。

なんで、私は·····。


·····2人を。



止めどなく涙が溢れ、手で押さえても止まることはなかった。


茅 愛莉
私は·····人殺しだ·····ッ。
人を守るための呪術師であり

呪術師を育てる学校に


人殺しはいらない



もう·····

茅 愛莉
悠仁とは·····居られない·····ッ!







談話室のソファに座っている悟の周りに悠仁、恵、野薔薇が囲んでいた。
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
先生、愛莉に何を話したの?
伏黒恵
伏黒恵
·····。
五条悟
五条悟
·····ご両親の死の真相だよ。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
え、愛の親は事故で死んだって·····。
五条悟
五条悟
·····電車事故でね。
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
もしかして·····。
五条悟
五条悟
愛莉も居たんだよ。
ご両親が亡くなった現場に。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
愛が覚えてなかったのって、思い出せなかったから·····?
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
そんな·····。
伏黒恵
伏黒恵
·····。
五条悟
五条悟
·····。
愛莉は両親を亡くした際の記憶を取り戻したはずだ。その時に誰が2人を殺したのか、本人が覚えているか。

これで愛莉の中の❝何か❞が分かる。それ次第で愛莉は処刑対処になるか、外れるか。

もしくは、悠仁と一緒で抑え込む事が可能か。

虎杖悠仁
虎杖悠仁
俺、長く愛莉と居たけど、全然気づいてやれなかった。
五条悟
五条悟
悠仁は十分気づいてたよ。
小さいながら、愛莉の家庭の異変に。
愛莉の体についた虐待の痕。
異様な笑顔。


家族の間にどんな環境があったか分からないが、家じゃ笑えず、悠仁達が居た幼稚園が唯一の拠り所であり、笑顔になれた場所。


悟は悠仁を見て、
五条悟
五条悟
(悠仁は小さい頃から愛莉を気にかけていたんだね。)
虎杖悠仁
虎杖悠仁
俺、愛莉のとこに行ってくるよ。
悠仁は寮へと足を進め、実際のところ女子寮は男子禁制なのだが今回は特別で悟が許可を出した。


釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
虎杖と愛莉の関係がよく分かんないんだけど、そういう関係と捉えていいのかしら。
伏黒恵
伏黒恵
そう簡単な関係じゃないと思う。
五条悟
五条悟
家族以上の関係だよ。
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
家族なの?でも姓が違うのは·····
五条悟
五条悟
野薔薇は2人の大事な仲間だし、話が長くなるけど、それでもいい?
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
大丈夫よ。時間はたっぷりあるでしょ。
野薔薇は悟の前に座り、恵は立ったまま悟の話に耳を傾けた。









悠仁は愛莉の部屋に近づくにつれて、なんて声をかけたらいいか迷い足が止まってしまった。



幼稚園の頃、愛のお母さん達が迎えに来るのが遅くなることがよくあった。

ホントは時間が決まっていて、必ず時間通りに迎えに来なければならないはずなのに、来ない事がよくあった。
最初は先生も家に連絡をし、急かせて愛の親に迎えにきてもらう感じだった。でも何回もあると仕方ないと園長先生が幼稚園で待たせてあげることになった。

俺は愛が1人になるのが可哀想になり、じいちゃん説得して一緒に幼稚園で待ってた事も何回もあった。

迎えが遅いのに愛は笑って楽しそうにおもちゃで遊んだり、絵を描いたり、本を読んだり。
まるで、自分の家でくつろいでいるぐらい俺と遊びまくった。

「あ、愛莉ちゃんのお母さん来たよ。」
あの時、違和感はあったんだ。

愛莉見たら、怯えた表情をした一瞬を。

「ホントだね。悠仁君また明日ね。悠仁君のおじいちゃんまたね。」

また笑顔になってお母さんのところに走って行った愛莉を見て、気のせいだったんだなって。

でも、次の違和感は確信に変わってた。


愛の親がまた迎えに来るのが遅くなって、また一緒に来るまで待ってあげていた事があった。でもその日はいつもの日と違っていた。
次の日は土曜日。幼稚園は休みだから·····。

いつものように愛は笑ってて楽しそうにしていて、この時間が嬉しいのか、俺も嬉しかった。
でも、愛の迎えが見えた時愛に声をかけようとしたけど、あの時の表情をさせたくなかったから黙っていた。黙っていれば、愛は楽しそうだったから·····。

でも先生が気づいてしまって、愛に伝えたらやっぱり、怯えた、悲しい顔をしたのを見逃さなかった。


「悠仁君、また明日ね。」

「愛莉ちゃん·····明日幼稚園お休みで会えないんだよ。」

この時の愛莉の絶望した表情は子供ながらショックだった。
幼稚園児がこんな顔をするんだって。

「そっか·····。じゃあ、その次の日は?」
その次の日は日曜日。

俺は困って助けを求めるようにじいちゃんを見たら
「お休みじゃな。」
じいちゃんが教えてくれたけど、愛は悲しそうだった。でもその表情は一瞬だけ。すぐ笑って、

「じゃあ、その次の日の次は?会えるよね?」

「う、うん。」



あの頃からだったんだよな·····?


「またね、悠仁君!悠仁君のおじいちゃん!」
あの笑顔を最後に、愛はその次の日の次の·····月曜日には幼稚園に二度と来ることはなかった。

あの土日のどちらかで愛の両親が亡くなって、愛は·····。

じいちゃんも気づいていたと思う。俺の異変にも愛莉の事も。だから愛莉を引き取る時何も言わずに受け入れてくれたんだ。




愛は一人で戦ってたんだよな。
気づいていたのに助けてやれなくてゴメンな。俺が小さくなければ、今なら助けてやれたかもしれないのに·····。




愛莉の部屋まで足を進めたが、ドアが少し開いている事に違和感を感じ、ドアを開け中を覗くと誰も居なかった。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
愛·····?
中に入って布団をめくっても誰も居なかった。
イヤな予感しかなく、悠仁は愛莉の部屋を後にし、急いで悟達のところに走った。



釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
なんか複雑なのね、あの二人。てっきりそういう関係かと思ったわ。
五条悟
五条悟
そういう関係でもあると思うけど、多分あの二人にはそれ以上に家族の関係が強いんじゃないかな。だから·····
虎杖悠仁
虎杖悠仁
先生!!愛莉居なくなった!!
悟、恵、野薔薇
「「「!」」」

息を切らし、悠仁が走って駆け寄り、
虎杖悠仁
虎杖悠仁
部屋に居ない!
五条悟
五条悟
悠仁と野薔薇は女子寮含め、寮周辺も片っ端から捜して、僕と恵は高専を捜そう。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
·····。
釘崎野薔薇
釘崎野薔薇
分かったわ。
伏黒恵
伏黒恵
分かりました。
二手に別れ、悠仁と野薔薇は女子寮と男子寮、その周辺を捜しに出ていった。


その姿を確認した悟は座り込んだまま動かなかった。
恵は険しい顔で悟を見たが、捜す気配がない様子に反対側のソファに座った。
伏黒恵
伏黒恵
何処に居るのか分かってるんですか?
五条悟
五条悟
高専にはまず行かないでしょ。
行っても今の愛莉には用がない。
この短時間で寮の周りか、もしくは出て行くか、だけど。伊地知が外で洗車してるから出ていったら連絡が僕のところに来る。
伏黒恵
伏黒恵
·····愛莉ちゃんにホントは何て言ったんですか。
五条悟
五条悟
人を殺したことあるか、って。
伏黒恵
伏黒恵
本当に·····っ。
聞き方、他になかったんですか!?
五条悟
五条悟
僕も鬼じゃないよ。聞くの躊躇ったんだから、これでも。
でも、聞かなきゃ敵意が向かないでしょ、僕に。
伏黒恵
伏黒恵
どういう·····意味ですか。
五条悟
五条悟
愛莉の中の❝何か❞は、今のところ分かってるのは2つ。その2つのどちらかがスイッチになって愛莉の身体を使って攻撃をしてる。
伏黒恵
伏黒恵
·····。
人差し指で1を表し、
五条悟
五条悟
1つ、悠仁が引き金トリガーになっている事。これは言わずもがなだけど、悠仁の事になると、悠仁を大事に思う愛莉の引き金のスイッチになっている事。悠仁が痛手を負ったら何をしでかすか分からない。
ソファに頭を起き、
五条悟
五条悟
これに関しては愛莉自身の独断なのか、もう中の❝何か❞と意思疎通が通じての共同なのか、がハッキリしないけど、悠仁が引き金トリガーなのは確かだよね。
中指を追加で立て、
五条悟
五条悟
そして2つ。
❝死❞を受け入れなきゃいけない場面に遭遇すると即座に対応してるみたいだね。ご両親が亡くなった·····愛莉が最初に力を使ったとされるあの時。あとはこの前のコンビニ跡地での呪霊。❝死❞が迫っていたから、愛莉の中の❝何か❞が愛莉を守るために動いた。
伏黒恵
伏黒恵
それのどこが、五条先生に敵意を向けるのと関係があるんですか?
五条悟
五条悟
僕が愛莉に対して粗雑に扱えば、愛莉の中の❝何か❞は愛莉を傷つけたとして僕を敵と見なす。例え、宿儺が愛莉にとって敵だとしても、体は悠仁だ。愛莉が悠仁を傷つける事はないけど❝何か❞は違う。
僕を敵だと見なせば、君らに噛み付く事はないだろうし。
両手を広げ、これで安全でしょ?とポーズを取る。
五条悟
五条悟
愛莉には申し訳ない事をしちゃったけど、皆の為でもあり、愛莉の為でもある。
今は罪悪感にさいなまれてるかもしれないけど、ご両親を実際手にかけたのは愛莉じゃない。知らない真実を隠したままでもいいけど、愛莉の中の❝何か❞は多分待ってはくれないだろうね。
伏黒恵
伏黒恵
なんでそこまでして·····。
五条悟
五条悟
恵も見たでしょ。コンビニ跡地にいた呪霊。
伏黒恵
伏黒恵
·····まさか·····
五条悟
五条悟
コンビニ跡地に居た呪霊は1級に近い2級レベル。それを簡単に倒してるんだよ。
伏黒恵
伏黒恵
愛莉ちゃんの中に居るのは1級レベル·····。
五条悟
五条悟
もしくは、特級か。
伏黒恵
伏黒恵
驚きに恵は立ち上がり、
伏黒恵
伏黒恵
特級は4人しか居ないんじゃないですか!?
五条悟
五条悟
今、知る限り、ではだよ。
昔は分からない。
伏黒恵
伏黒恵
昔·····?
五条悟
五条悟
あの力を発動する際の❝赤い眼❞、2級レベルの呪霊の残骸から棘と似たような術式。
どっかで聞いた事あったんだよね。しかもかなり昔に存在した。
伏黒恵
伏黒恵
昔の呪術師が愛莉ちゃんの中に居るって、生まれ変わりって事ですか?
五条悟
五条悟
生まれ変わりかは断言出来ないけど。しかも、それがもし愛莉の中に居るなら、今後気をつけなきゃいけない。
伏黒恵
伏黒恵
もしかして·····危険な人物なんですか。
五条悟
五条悟
愛莉の中の❝何か❞とは確証は持てないけど、僕の記憶が正しければ·····
悟は立ち上がり、背伸びをすると腰をトントン叩く。




五条悟
五条悟
呪詛師だから。
伏黒恵
伏黒恵




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