目を覚ました愛莉の目には真っ白い天井が写っていた。
周りを見る元気はなかったが、見慣れた部屋だったため、自分の部屋だと考える気力のない頭で理解した。
なんで、自分の部屋に横たわっているのか。
五条先生に聞かれた。
·····人を殺した事があるのか。
あるわけない。
そう、断言したかったのに·····。
なんで、今まで思い出さなかったんだろう。
なんで、今までこんな大事な事を忘れていたのだろう。
なんで、私は·····。
·····2人を。
止めどなく涙が溢れ、手で押さえても止まることはなかった。
人を守るための呪術師であり
呪術師を育てる学校に
人殺しはいらない
もう·····
談話室のソファに座っている悟の周りに悠仁、恵、野薔薇が囲んでいた。
愛莉は両親を亡くした際の記憶を取り戻したはずだ。その時に誰が2人を殺したのか、本人が覚えているか。
これで愛莉の中の❝何か❞が分かる。それ次第で愛莉は処刑対処になるか、外れるか。
もしくは、悠仁と一緒で抑え込む事が可能か。
愛莉の体についた虐待の痕。
異様な笑顔。
家族の間にどんな環境があったか分からないが、家じゃ笑えず、悠仁達が居た幼稚園が唯一の拠り所であり、笑顔になれた場所。
悟は悠仁を見て、
悠仁は寮へと足を進め、実際のところ女子寮は男子禁制なのだが今回は特別で悟が許可を出した。
野薔薇は悟の前に座り、恵は立ったまま悟の話に耳を傾けた。
悠仁は愛莉の部屋に近づくにつれて、なんて声をかけたらいいか迷い足が止まってしまった。
幼稚園の頃、愛のお母さん達が迎えに来るのが遅くなることがよくあった。
ホントは時間が決まっていて、必ず時間通りに迎えに来なければならないはずなのに、来ない事がよくあった。
最初は先生も家に連絡をし、急かせて愛の親に迎えにきてもらう感じだった。でも何回もあると仕方ないと園長先生が幼稚園で待たせてあげることになった。
俺は愛が1人になるのが可哀想になり、じいちゃん説得して一緒に幼稚園で待ってた事も何回もあった。
迎えが遅いのに愛は笑って楽しそうにおもちゃで遊んだり、絵を描いたり、本を読んだり。
まるで、自分の家でくつろいでいるぐらい俺と遊びまくった。
「あ、愛莉ちゃんのお母さん来たよ。」
あの時、違和感はあったんだ。
愛莉見たら、怯えた表情をした一瞬を。
「ホントだね。悠仁君また明日ね。悠仁君のおじいちゃんまたね。」
また笑顔になってお母さんのところに走って行った愛莉を見て、気のせいだったんだなって。
でも、次の違和感は確信に変わってた。
愛の親がまた迎えに来るのが遅くなって、また一緒に来るまで待ってあげていた事があった。でもその日はいつもの日と違っていた。
次の日は土曜日。幼稚園は休みだから·····。
いつものように愛は笑ってて楽しそうにしていて、この時間が嬉しいのか、俺も嬉しかった。
でも、愛の迎えが見えた時愛に声をかけようとしたけど、あの時の表情をさせたくなかったから黙っていた。黙っていれば、愛は楽しそうだったから·····。
でも先生が気づいてしまって、愛に伝えたらやっぱり、怯えた、悲しい顔をしたのを見逃さなかった。
「悠仁君、また明日ね。」
「愛莉ちゃん·····明日幼稚園お休みで会えないんだよ。」
この時の愛莉の絶望した表情は子供ながらショックだった。
幼稚園児がこんな顔をするんだって。
「そっか·····。じゃあ、その次の日は?」
その次の日は日曜日。
俺は困って助けを求めるようにじいちゃんを見たら
「お休みじゃな。」
じいちゃんが教えてくれたけど、愛は悲しそうだった。でもその表情は一瞬だけ。すぐ笑って、
「じゃあ、その次の日の次は?会えるよね?」
「う、うん。」
あの頃からだったんだよな·····?
「またね、悠仁君!悠仁君のおじいちゃん!」
あの笑顔を最後に、愛はその次の日の次の·····月曜日には幼稚園に二度と来ることはなかった。
あの土日のどちらかで愛の両親が亡くなって、愛は·····。
じいちゃんも気づいていたと思う。俺の異変にも愛莉の事も。だから愛莉を引き取る時何も言わずに受け入れてくれたんだ。
愛は一人で戦ってたんだよな。
気づいていたのに助けてやれなくてゴメンな。俺が小さくなければ、今なら助けてやれたかもしれないのに·····。
愛莉の部屋まで足を進めたが、ドアが少し開いている事に違和感を感じ、ドアを開け中を覗くと誰も居なかった。
中に入って布団をめくっても誰も居なかった。
イヤな予感しかなく、悠仁は愛莉の部屋を後にし、急いで悟達のところに走った。
悟、恵、野薔薇
「「「!」」」
息を切らし、悠仁が走って駆け寄り、
二手に別れ、悠仁と野薔薇は女子寮と男子寮、その周辺を捜しに出ていった。
その姿を確認した悟は座り込んだまま動かなかった。
恵は険しい顔で悟を見たが、捜す気配がない様子に反対側のソファに座った。
人差し指で1を表し、
ソファに頭を起き、
中指を追加で立て、
両手を広げ、これで安全でしょ?とポーズを取る。
驚きに恵は立ち上がり、
悟は立ち上がり、背伸びをすると腰をトントン叩く。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!