落ち着いてきたのか愛莉の泣き声が聞こえなくなり、泣きじゃっくりが悠仁の胸元から聞こえていた。
本当に悠仁の中に居るのだろうか。
今は気配も何も感じない。
このまま出てこないでほしい。
このまま、悠仁のままで。
愛莉が急に話し始め、急に静かになったため、悠仁は愛莉の頭を自らの顎でコンコンつついた。
バッと愛莉から体を引き剥がし、胸元の服を自分で嗅ぎ出した。
笑いながら再びベンチに座り、目元の涙を手で拭った。
どちらかと言ったら、私の方が昨日シャワーすら浴びずにお風呂に入らないまま、寝てしまっている。·····伏黒君もだ。
何も出来ず、彼には助けられてばっかりで申し訳なくなってくる。
愛莉が座るベンチに悠仁も隣に座った。
私が行ってどうなるだろう。
伏黒君は悠仁の保護者だから、と言ってたが、だから一緒に行って私に何が出来る·····?
悠仁を守るために、何をしたら·····。
呪術を学べばいいのか?
何の力もない私が呪術の高校に行っても足でまといにしかならないはずだ。
悠仁は学ぶためとはいえ、私の子守りなんかしてる暇はないはず。
バカらしくなり、鼻で笑い悠仁から顔を背けた。
人の気持ちも知らないで。
立ち上がり、悠仁を睨む。悠仁の中に居るであろう宿儺に対して、が正しいが。
悠仁はこういうやつ。
自分より、人のため。
誰かを守るために自分を犠牲にする。
そんな事言われたら私が悪いみたいだ。
まさか·····
特級呪物飲み込んで、宿儺が悠仁の体と一体化するなんて思わなかったけど·····。
悠仁の体を指差し
愛莉の嫌悪感に悠仁は言葉を詰まらせた。
悠仁の中に居る宿儺に聞こえたか、聞こえなかったかは定かではないが、暗闇で大きく口元が歪む誰かが居た。
悠仁が返事する時には愛莉は背を向けていた。
こんなに愛って、小さかったっけ。
背中から感じる愛莉のか細い姿に悠仁は愛莉の頭に手を置いた。
温かい悠仁の手と声に目から再び涙が出そうになり、悠仁に見えないように手で涙を拭った。
暗闇に近い薄暗く不気味な雰囲気が漂う空間で、骸の山の頂点にあぐらをかいて肘をつく人物がいた。
額、鼻、頬から顎にかけて紋章、両目の下にはもう1つの目が薄ら開け、目元だけで不敵な笑みを浮かべていることが分かる。
悠仁の中に居る、両面宿儺だった。
悠仁の中から状況をある程度把握していた宿儺はふと何かを思い出し表情を変えた。
あの女のあの目·····。
·····以前、どこかで·····。
試してみる価値はありそうだ···。
宿儺の企む笑い声は悠仁には聞こえていなかった。
悟に呼び出されて振り回された恵はやっとのことで病院入口にて本人と対面した。
あるとしても·····壮絶な過去の経験をして、虎杖とその祖父と暮らしていたあの家は今じゃ楽しかった思い出も、彼女には辛くなる場所になってしまったって事。
何かあったとしても、それからの事を思い返して彼女の様子を窺っていたが、普通の女の子にしか見えなかった。
幼なじみというより家族と言っていたが·····。
虎杖の事大事に思っている、ただの女の子にしか。
「さり気なくね。」と恵の肩をポンッと叩き、悠仁がいる中庭に向かって歩いて行った。
悟の気にし過ぎなのか、一度しか見ていない愛莉のあの殺気だけで、何かあると判断した事が間違いであってほしいと思う恵は中庭に足を進めた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!