第10話

見えない影
1,309
2024/03/10 13:18

落ち着いてきたのか愛莉の泣き声が聞こえなくなり、泣きじゃっくりが悠仁の胸元から聞こえていた。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
ごめんな、愛。
茅 愛莉
····悠仁。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
ん?
茅 愛莉
宿儺は·····?
虎杖悠仁
虎杖悠仁
···今は何も聞こえない。
本当に悠仁の中に居るのだろうか。
今は気配も何も感じない。


このまま出てこないでほしい。


このまま、悠仁のままで。

虎杖悠仁
虎杖悠仁
愛?
愛莉が急に話し始め、急に静かになったため、悠仁は愛莉の頭を自らの顎でコンコンつついた。
茅 愛莉
悠仁·····。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
なに?
茅 愛莉
·····汗クサイ。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
え?
バッと愛莉から体を引き剥がし、胸元の服を自分で嗅ぎ出した。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
え、マジ、くさい?
茅 愛莉
·····ウソだよ。
笑いながら再びベンチに座り、目元の涙を手で拭った。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
なんだよー。
一応、昨日高専でシャワー借りたからクサくはないと思うんだけど。
茅 愛莉
····そっか。いい匂いだったよ。
どちらかと言ったら、私の方が昨日シャワーすら浴びずにお風呂に入らないまま、寝てしまっている。·····伏黒君もだ。
何も出来ず、彼には助けられてばっかりで申し訳なくなってくる。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
·····愛。
茅 愛莉
ん?
虎杖悠仁
虎杖悠仁
一緒に高専来る、よな?
愛莉が座るベンチに悠仁も隣に座った。
茅 愛莉
·····。


私が行ってどうなるだろう。

伏黒君は悠仁の保護者だから、と言ってたが、だから一緒に行って私に何が出来る·····?


悠仁を守るために、何をしたら·····。
呪術を学べばいいのか?


何の力もない私が呪術の高校に行っても足でまといにしかならないはずだ。
悠仁は学ぶためとはいえ、私の子守りなんかしてる暇はないはず。


虎杖悠仁
虎杖悠仁
愛?
茅 愛莉
·····行って、私は何をすればいいの?
虎杖悠仁
虎杖悠仁
それは·····。でも、五条先生は愛莉も学ぶ必要があるかもしれないって。
茅 愛莉
私が?呪術を学ぶの?
何のために·····。
バカらしくなり、鼻で笑い悠仁から顔を背けた。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
なぁ、愛。お前昨日からおかしいよ。
どうしたんだよ。

人の気持ちも知らないで。
茅 愛莉
····悠仁は平気なのかもしれないけど、私は無理だから。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
え····?
立ち上がり、悠仁を睨む。悠仁の中に居るであろう宿儺に対して、が正しいが。
茅 愛莉
私は無理なの!!
悠仁の中に居るやつが!····絶対に····っ!
虎杖悠仁
虎杖悠仁
愛····。
ごめん。
俺·····あの時は伏黒助ける道があの方法しか思いつかなくて·····。伏黒も怪我してたし、俺もあんなのと戦うなんて初めてだし···だから····本当にごめん。



悠仁はこういうやつ。
自分より、人のため。

誰かを守るために自分を犠牲にする。




そんな事言われたら私が悪いみたいだ。
茅 愛莉
·····さっきから、謝ってばっかり。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
え、あ、ごめん。あ·····えーっと·····。
茅 愛莉
もう·····いいよ。伏黒君のあの怪我じゃ、どっちみち2人ともやられてたかもしれないし。それに悠仁の事だから、誰か守るために何かしらやらかすと思ってた。
まさか·····
虎杖悠仁
虎杖悠仁
愛·····
特級呪物飲み込んで、宿儺が悠仁の体と一体化するなんて思わなかったけど·····。
茅 愛莉
でも。私は嫌い。
悠仁の体を指差し
茅 愛莉
悠仁の中に居る、アンタは大っ嫌い!!
虎杖悠仁
虎杖悠仁
·····。
愛莉の嫌悪感に悠仁は言葉を詰まらせた。

悠仁の中に居る宿儺に聞こえたか、聞こえなかったかは定かではないが、暗闇で大きく口元が歪む誰かが居た。
茅 愛莉
·····悠仁。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
うん?
悠仁が返事する時には愛莉は背を向けていた。
茅 愛莉
もう、居なくならないでね。

こんなに愛って、小さかったっけ。


背中から感じる愛莉のか細い姿に悠仁は愛莉の頭に手を置いた。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
おう。
茅 愛莉
·····おかえり。
虎杖悠仁
虎杖悠仁
ただいま、愛莉!
温かい悠仁の手と声に目から再び涙が出そうになり、悠仁に見えないように手で涙を拭った。





暗闇に近い薄暗く不気味な雰囲気が漂う空間で、骸の山の頂点にあぐらをかいて肘をつく人物がいた。


額、鼻、頬から顎にかけて紋章、両目の下にはもう1つの目が薄ら開け、目元だけで不敵な笑みを浮かべていることが分かる。


悠仁の中に居る、両面宿儺だった。


両面宿儺
両面宿儺
最初に食べるには実に勿体無い女だな。
悠仁の中から状況をある程度把握していた宿儺はふと何かを思い出し表情を変えた。
両面宿儺
両面宿儺
あの女、何を隠している。
だが呪力も何も感じられん。
·····何者だ。


あの女のあの目·····。
·····以前、どこかで·····。


試してみる価値はありそうだ···。


両面宿儺
両面宿儺
·····面白い。
宿儺の企む笑い声は悠仁には聞こえていなかった。








悟に呼び出されて振り回された恵はやっとのことで病院入口にて本人と対面した。
伏黒恵
伏黒恵
どこで、何してたんですか。
五条悟
五条悟
悠仁の用事に付き合ってたの。
それで?何で愛莉の家に居たの?
伏黒恵
伏黒恵
それ、まだ引きずります?
そういえばさっきちょっと疑問に思ってましたけど·····面倒くさくてあえて聞きませんでしたけど、何で家に居たって知ってるんですか。
五条悟
五条悟
え、やっぱ、居たの!?
伏黒恵
伏黒恵
ハッタリか。·····やられた。
五条悟
五条悟
冗談だよ。昨日一緒に居た高専関係者から聞いたんだよ。
伏黒恵
伏黒恵
教え子もてあそんで楽しいですか。
五条悟
五条悟
楽しいね!で、どうだった?
伏黒恵
伏黒恵
どうだった、って何も。
何を期待してるのか知りませんけど。


あるとしても·····壮絶な過去の経験をして、虎杖とその祖父と暮らしていたあの家は今じゃ楽しかった思い出も、彼女には辛くなる場所になってしまったって事。

伏黒恵
伏黒恵
幼少期に両親を事故で亡くしてる事は聞きました。
五条悟
五条悟
あらま。
もう、そんなお話する仲になったの?
伏黒恵
伏黒恵
話の流れで、彼女が話してくれたんですよ。
五条悟
五条悟
へぇ、事故で。何の?
伏黒恵
伏黒恵
それは知りませんよ。その後に児童養護施設に預けられた、しか聞いてませんし。
·····やっぱ、気になるんですか?
五条悟
五条悟
恵は?気づいてるでしょ。気になんない?
あれは何かあるよねー。

何かあったとしても、それからの事を思い返して彼女の様子を窺っていたが、普通の女の子にしか見えなかった。


幼なじみというより家族と言っていたが·····。
虎杖の事大事に思っている、ただの女の子にしか。
五条悟
五条悟
今、伊地知に調べさせてるから。
伏黒恵
伏黒恵
彼女の事をですか?どうやって·····。
五条悟
五条悟
え、ハッキング?
役所のパソコンをちょちょいとね。
伏黒恵
伏黒恵
それ、犯罪ですよ。
五条悟
五条悟
バレなきゃ犯罪じゃなくなるのだよ、恵君。
伏黒恵
伏黒恵
(イラッ)
五条悟
五条悟
とにかく茅愛莉って人物を生誕した時から今にかけて調べてみて、呪術と関係ないのか。悠仁の傍に置いて安全なのか調べる必要はあるでしょ。
伏黒恵
伏黒恵
安全····?
五条悟
五条悟
悠仁に対しては異常な執着がある。それは純愛なのか、それとも家族としてなのか、それとも別な物なのか。
でも、宿儺に対しては?
伏黒恵
伏黒恵
····敵。
五条悟
五条悟
そう!あの様子だと、愛莉にとって悠仁を奪った宿儺は敵。状況が状況で仕方なく悠仁が宿儺を取り込んだ事に間違いはないし、悠仁は悪気があって呪物を飲み込んだわけじゃない。でも、それを愛莉が納得すると思う?
伏黒恵
伏黒恵
·····。
五条悟
五条悟
本人は自覚がないだろうね。
でも、これからは?無意識で宿儺を攻撃してくるかな?おー怖っ!
伏黒恵
伏黒恵
なんか、彼女が何かしらの力を持ってるような話し振りですね。
五条悟
五条悟
何かじゃなくて、あれは確実に持ってるよ。悠仁がスイッチになってる。
まあ、高専に来させるにも理由がないからさ、愛莉がまず何者かを先に調べなきゃ始まらないってわけ。
伏黒恵
伏黒恵
虎杖には説明するんですか?
五条悟
五条悟
どうしようかねー。
悠仁には愛莉も高専来るから、安心しな、って言っちゃったけど、呪術に関しては何も持ってない非術師だし。悠仁納得しちゃったけど、どうしよう。
伏黒恵
伏黒恵
ホント適当ですね。
五条悟
五条悟
まっ、どうにかなるでしょ。
恵も探っといてよ。愛莉の素性を。記録の情報だけじゃ得られない事は本人に聞くのが一番でしょ。
伏黒恵
伏黒恵
·····。
五条悟
五条悟
悠仁には僕から聞いてみるよ。
「さり気なくね。」と恵の肩をポンッと叩き、悠仁がいる中庭に向かって歩いて行った。



伏黒恵
伏黒恵
····何かを持ってるようには·····見えなかったけどな。
悟の気にし過ぎなのか、一度しか見ていない愛莉のあの殺気だけで、何かあると判断した事が間違いであってほしいと思う恵は中庭に足を進めた。



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