今日は、海斗の部活があり、家には集まれない日だ。波は一応家で机に向かったが、分からないし進まないしで何も出来ず、結局近くの図書館にやってきた。
最近は、暇になるとここで昔の資料を探す。
大昔の資料とかなら自分の能力について何かわかるかもしれないと思って、何か書いてありそうなものは片っ端から読んでいるが、今のところこれといった手がかりはない。
図書館の司書さんには何度か「お手伝いしましょうか」と聞かれたが、返す言葉も見つからず、「大丈夫です…」とだけ答えていると、あからさまに諦められた。今では波を気にするのは、いつ行っても椅子に座って雑誌を読んでいるおばあさんだけだ。
いつも波の方を見て、なにか気になっているような視線を送ってくるが、特に話しかけてくる様子はない。何かあるなら言って欲しいが、こちらも別に助言を求めている訳では無いので気にしていない。
今日も、おばあさんの視線を感じながら資料を探す。「異能」とか「予知」とかいう言葉が見えたらすぐにその本や資料を手に取る。それをずっと続けているにも関わらず、未だに何も分からないままだ。
家族も何も知らないどころか、話も聞いてくれなかった。イタズラだと思われたみたいだが、高校生がこんなことで嘘をつくわけがないだろうと、心の中で反論して家族からの情報収集は諦めた。
その時、いつも動かなかったおばあさんが動いた。
お年寄り特有のゆっくりとした声で話しかけてきたおばあさん。腰は曲がり、だいぶ下からのご挨拶だ。
「ここ」とはおそらく、このブースのことだろう。確かにこんな古びた本や資料、大人でも手に取らない。
こちらも、なぜいつもここにいるのか聞きたいところだが、今回は一旦保留しよう。
お手伝いしてくれるのはありがたいが、自分一人の問題であるということ以前に、こんな話を信じてくれる人はいないだろうという気持ちから、手伝いの申し出を断った。すると、おばあさんは顔を覗き込みながら、質問を投げかけてきた。
おばあさんは少し考え込んで、言った。
波にとって、心当たりがありすぎる話だ。
でも、このおばあさんが勝手に聞いてきているだけかもしれない。ここで全てを話すべきではない気がする。そう思って、嘘をついた。
なんで…このおばあさんはわかったんだ…
「明日が見える」なんて家族にしか言ってないのに。
おばあさんは黙り込む波の肩に手を置いて、
付け足した。
それだけ言うと、おばあさんは腰を丸めたままどこかに行ってしまった。
おばあさんの気迫に負けて、何も言えずに立っていた波は、はっと我に返り、自然と海を避けて家路についた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!