第3話

No.2
260
2022/06/27 22:55
今日は、海斗の部活があり、家には集まれない日だ。波は一応家で机に向かったが、分からないし進まないしで何も出来ず、結局近くの図書館にやってきた。

最近は、暇になるとここで昔の資料を探す。

大昔の資料とかなら自分の能力について何かわかるかもしれないと思って、何か書いてありそうなものは片っ端から読んでいるが、今のところこれといった手がかりはない。

図書館の司書さんには何度か「お手伝いしましょうか」と聞かれたが、返す言葉も見つからず、「大丈夫です…」とだけ答えていると、あからさまに諦められた。今では波を気にするのは、いつ行っても椅子に座って雑誌を読んでいるおばあさんだけだ。

いつも波の方を見て、なにか気になっているような視線を送ってくるが、特に話しかけてくる様子はない。何かあるなら言って欲しいが、こちらも別に助言を求めている訳では無いので気にしていない。

今日も、おばあさんの視線を感じながら資料を探す。「異能」とか「予知」とかいう言葉が見えたらすぐにその本や資料を手に取る。それをずっと続けているにも関わらず、未だに何も分からないままだ。

家族も何も知らないどころか、話も聞いてくれなかった。イタズラだと思われたみたいだが、高校生がこんなことで嘘をつくわけがないだろうと、心の中で反論して家族からの情報収集は諦めた。
その時、いつも動かなかったおばあさんが動いた。
図書館のおばあさん
こんにちは
お年寄り特有のゆっくりとした声で話しかけてきたおばあさん。腰は曲がり、だいぶ下からのご挨拶だ。
図書館のおばあさん
こんなところでいつも何をしているの?
図書館のおばあさん
ここには若い者が見るような本はないよ
「ここ」とはおそらく、このブースのことだろう。確かにこんな古びた本や資料、大人でも手に取らない。

こちらも、なぜいつもここにいるのか聞きたいところだが、今回は一旦保留しよう。
ちょっと探し物をしてて…
図書館のおばあさん
探し物?
一緒に探してあげようか?
図書館のおばあさん
いつも同じところ探してるでしょあんた
図書館のおばあさん
そんなに探してないんなら
人を呼んでくればいいのに
一人でやりたいことなんです…
お気遣いありがとうございます
お手伝いしてくれるのはありがたいが、自分一人の問題であるということ以前に、こんな話を信じてくれる人はいないだろうという気持ちから、手伝いの申し出を断った。すると、おばあさんは顔を覗き込みながら、質問を投げかけてきた。
図書館のおばあさん
あんた、名前は?
波です…
図書館のおばあさん
海によく行くかい?
はい、家が近いので
図書館のおばあさん
そうかい、そうかい
おばあさんは少し考え込んで、言った。
図書館のおばあさん
じゃあ、なにか自分が特別だと
思ってないかい?
特別…?
図書館のおばあさん
そうさ、周りと違うと思っていることさ
波にとって、心当たりがありすぎる話だ。

でも、このおばあさんが勝手に聞いてきているだけかもしれない。ここで全てを話すべきではない気がする。そう思って、嘘をついた。
ない…ですけど
図書館のおばあさん
あたし、人が嘘ついてたらわかるんだよ
図書館のおばあさん
本当のことを言ってみな
それとも、「明日が見える」なんて、
自分の幻想だと思ってるのかい?
……!?
なんで…このおばあさんはわかったんだ…
「明日が見える」なんて家族にしか言ってないのに。
なんで…知ってるんですか…?
図書館のおばあさん
そのうち分かるさ
……
図書館のおばあさん
あんたが欲しい情報が何かわからないけどね、ひとつだけ忠告しておくよ
図書館のおばあさん
絶対に自分で見た明日を
ねじ曲げようとするんじゃないよ
図書館のおばあさん
未来をわかっていながら変えることは
それなりに大きな代償を伴うことになる
図書館のおばあさん
もし、あんたが明日誰かが死ぬところを見たとしよう、それであんたがその人を助けたのなら、代わりに死ぬのはあんたになる
図書館のおばあさん
未来っていうのはそういう仕組みなのさ
おばあさんは黙り込む波の肩に手を置いて、
付け足した。
図書館のおばあさん
あとは、黄昏時の海には気をつけなさい
それだけ言うと、おばあさんは腰を丸めたままどこかに行ってしまった。

おばあさんの気迫に負けて、何も言えずに立っていた波は、はっと我に返り、自然と海を避けて家路についた。

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