遊びに行くだけの予定だったのに、思いがけない重荷を背負って行くことになってしまった波は、久々に再開した仲間も多くいる中、あまり楽しめないでいた。
それでも、昨日見た波は心の底から楽しんでいるように見えた。つまり、昨日見た波がするはずのないことを今日の波がしてしまうと、未来が変わってしまう。海斗が死んでしまう未来が変わるならそれでいいのだが、良くない方向に変わってしまった場合に取り返しのつかないことになりそうで、出来るだけ心底楽しんでいるように振舞った。
そろそろ網の上から具材がなくなりつつある。バーベキューも終盤だろう。昨日見た今日は、おそらくバーベキューの終盤あたりのシーン。そろそろ海斗が動きたいと言い出す頃だ。何がなんでも海斗が海に入るのだけは阻止しなければならない。
結局勝ったのは海斗だった。
それからしばらくは、網の上に残った残りをみんなで食べながら、少し雑談をしていた。楽しいはずのこんな時間も、波にとっては最大限に気を張り続けなければならない少し辛い時間だった。
波は、聞き覚えのある会話に全身が強ばった。
これで海斗が水上バイクに跳ねられることはなくなったはずだ。あとはいつ、どのように波が死んでしまうのか。あのおばあさんが言っていたことが本当なら、近いうちに波は死んでしまうのだろう。何があるのかは知らないが、できるだけみんなに見られないようにしたいと波は思った。
その時、それほど遠くない場所で、何かがぶつかる音がした。
みんなで音のした所へ来ると、昨日波が見たあの水上バイクが、テトラポットに乗り上げていた。乗っていた人の姿は見当たらないが、これにぶつかって海斗が死んでしまうようなことは確実になくなった。
海は、強風で大荒れ。こんな海に水上バイクで出るなんて正気じゃないと思うが、今の波には海斗の死を止められたことしか頭になかった。
それから一応警察に電話をして、後は警察に任せて、波たちは退散することになった。
それぞれが別々の方向に家路に着く。
そんな中、波はなぜかここから離れては行けない気がした。おばあさんが言うことが関係するのは間違いなかったが、それとは別に波自身がここにいたいと思っているような、そんな気がする。
それからしばらく、どんどん人が少なくなっていく海に何も考えずに座っていた波。
日は沈み始め、いわゆる黄昏時。
何も考えずにただぼーっとしていた波は、目の前まで迫る激浪に気付かない。怪物のように襲ってくるその激浪に、波は飲まれた。
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ごめんなさい…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。