第12話

No.11
117
2022/11/03 12:33
海水の塊の中に腕を伸ばす海斗。そのまま腕を待っていかれそうになるのを必死にこらえ、水の冷たい感触の中を手探りで探す。蒼空も同じように、反射的に波の姿を探して腕を動かしていた。既に2人とも水の中で振り回されている。呼吸の限界が近づき、今いる場所も荒波に飲まれた瞬間から分からない。目も開けられず、全ての限界が近づいたその時だった。
体がふっと宙に浮く感覚が海斗と蒼空を襲う。顔にまとわりついて酸素の取り込みを阻害していた海水も、一瞬にして消えていた。何を考えるでもなく一気に酸素を吸い込み、何が起こったのかと目を見開いた2人。
海斗
ど…どーなってんだよ…
蒼空
海斗…俺らってさ…
今、浮いてるで間違いない?
海斗
そう…だよな…
荒れ狂っていた荒波を真上から見下げる形で、海斗たちは浮いていた。まるで地球の重力が一瞬にして消えうせたかのような感覚だった。先程まで荒れ狂っていた荒波は、静かに海へと戻り始めた。なんの感情も湧かないまま海を見つめていた2人だが、冷静に現在の状況を把握した。
海斗
…波……
海斗
波…!!
まだあの中に波が!
必死に体をひねらせ、謎の無重力状態からの脱出を試みる海斗。その隣で、海斗の声に突き動かされたようにもがく蒼空。だが、その努力も虚しくふわふわと浮く2人の体が地上に触れることは無い。
海斗
波!波ー!!
蒼空
なんなんだよこれ!
どーやったら終わるんだよ…
真下に向かって必死に手を伸ばす海斗。ここから波の姿は見えないが、絶対あの中にいるという自信があった。ひたすらに叫び続け、体を動かし続けた海斗の体力にも限界が近づく。その時だった。
海斗
…あれ、渚さんじゃ…?
海斗は、地上で大波を操り動かす渚を見た。
蒼空
あれか?波を知ってるっていう
ばあさんか?
海斗
そう…
海斗
渚さーーん!!波が、波がいるんです!
助けてください!
地上に向かって叫ぶ海斗。その声に反応して顔を上げた渚には、いつもの朗らかな雰囲気は一切なかった。
海斗
…渚…さん…?
渚は、荒波を操る手を海斗たちの方に向け、なにか合図をした。それと同時に海斗たちの体は下降を始め、ゆっくりと地上に降り立った。それと同時に渚のもとに走る2人。
海斗
波!
蒼空
波!
お前たち、黄昏の海には行くなと言っただろう!なんで、どいつもこいつも忠告を守れないんだ!
海斗
俺、見えたんです
波がこの大波に乗って帰ってくるって
見た?なにで?
海斗
夢です
最近、正夢をよく見るんです
だから、もしかしたらと思って来てみたらこんなことになってしまって…
はぁ、なるほど、お前もその能力が
あったのか
海斗
能力…?
その時、海から断末魔のような叫び声がした。耳を塞いでいなければ、今ごろ鼓膜はなくなっていただろうという程の叫び声だった。
来るよ…あんたらは下がってな
海斗
え…
蒼空
おい、ばあちゃん!
どーゆーことか説…明…
荒波が引き、それと代わるように現れたのは、人間と魚を組みあわせたような、見たことの無い生物だった。手足にはヒレがあり、カッパのような手足だが、顔の見た目は人間の同じ。背中には背ビレがあり、よく見るとエラのようなものもある。

そして、肩には、ここ何週間か探し求めて走り回った波が、完全に気を失った状態で担がれていた。
海斗
…てめぇ…俺の…俺の波を返せ…!
今まで積もりに積もった海斗の怒りは、目の前にいるよく分からない半魚人に向けられた。
待ちな…
下がってなって言っただろう
今までに聞いた事のないほど、冷たく静かな口調で海斗を止める渚。その無言の圧に似た圧力に、頭に血が上った海斗さえ動きを止めた。
半魚人
お前は…何者だ…
半魚人
我々海の民がお前たちに操られるなど
ありえないはずだぞ…
海斗
海の民…?
半魚人
そこの間抜け面はなんだ
ここはお子様の来るところではないぞ
蒼空
はぁ?こっち見てんじゃねえよ!
さっさと波を返せ!
半魚人
ふっ…そんなことが本気で出来ると思ってるのか?俺がなんのためにこの娘をさらったのかも知らないくせに出しゃばってくるんじゃない
蒼空
知るかそんなもん!
おい…このあたしを差し置いて会話を続けるんじゃないよ
その場の空気が一瞬にして凍りついた。
半魚人
っ…お前は一体何者なんだ…
それは後で思い知らせてやるさ
あたしの目的はこの街を守ることだ
お前たち海の民に危害を加えたいわけ
では無い
だがな、この街を守るということは、
街の住民を守ることだ。
その子は返してもらうぞ。海の民。
半魚人
そ…そんな簡単に返せるほどの娘ではない…!我々の、お前たち陸の民に対する怒りがどれほどのものか…!!
じゃあ、交渉だ。
何故、その娘を離さない
半魚人は、穏やかに、静かな怒りを込めて語り始めた。元々、海の民と陸の民は共存して暮らしていた。当時は平和に暮らしていたそうだ。だが、一部の陸の民が、資源の独占のため、海の民を攻撃するようになった。それから、海の民は深海で陸の民から逃げるように、隠れるように生きてきたという。だが、海には女王がおり、その女王を中心に、海の民は団結し、いつか陸の民へ仕返しするために生きていた。だが、ある日、海の女王が失踪した。そのせいで海はいくつもの国に分断され、今も争いが絶えないのだという。
半魚人
そんな時に、この娘を見つけたんだ
この娘には特別な力がある
この娘を女王に置けば、
海はまたひとつになるのだと思ったから
さらったまでだ
海斗
そんなこと…波には関係ないだろ!
勝手にさらって女王にするだと…
ふざけんじゃねえ!
お前たちの言い分は分かった。
で、なぜ今更ここに来た
半魚人
そこの生意気野郎にも
この娘と同じような力があるとこに
気づいたからだ
半魚人
海の民は、時間に関する能力を持つことが多い。だから、その生意気野郎に国王の座を与えようと思ったのだ
半魚人
女王と国王が同時に現れれば、もっと
深く海の民が団結できるはずなのだ!
半魚人は期待の目を海斗に向ける。
海斗
え、俺…?
そういう事か…
海斗、波、すまなかった…
悪いのはこの私だったようだ
海斗
え…は…どういうことですか…?
そう言うと、渚は目を閉じて何かに集中した。その瞬間、渚の体は淡い光を発し、みるみるうちに若返っていった。
海斗
渚…さん?
半魚人
あ…あなたは…!!
ごめんなさいね、私がいなくなった
ばっかりに、海がそんなことになって
いたなんて
海斗
え、まさか…










そう、私が海の女王
事の発端よ

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