U-17合宿。
「Under 17」つまり、17歳以下の選手が参加する合宿だ。
氷帝男子テニス部で参加予定は
跡部景吾、
忍足侑士、
向日岳人、
芥川慈郎、
宍戸亮、
日吉若、
鳳長太郎、
樺地崇弘で構成されたレギュラー8名。
U-17合宿のことを話された今日は、
三者懇談。
つまり今日は、お偉いさん達がこの氷帝学園に一気に集まる。
そのため、かなり警備が厳しくなるのだ。
美澄柊乃も、戦闘体制に入っていた。
いつ、どこから攻撃されてもおかしくない。
気を張っていると、
後ろから私とよく似た低い声が聞こえた。
榊監督の部屋の前にある椅子に座っている私たちに
そう声を掛けたのは、紛れもなく、
私の母だった。
景吾様の三者懇談や、
授業参観、
学校の行事などに、
景吾様の両親が参加することは一度もなかった。
景吾様のお爺様は、
跡部財閥の現頭首である。
景吾様のお父様は次期頭首という立場といえる。
「京都別邸」。
跡部家本邸は、東京都だと言われているが
実際のところ、
京都が本邸のようなものだ。
景吾様は、来るはずもない自分の父と母を、
ずっと待っていた。
氷帝の三者懇談は、
担任ではなく、その生徒と関係の深い教師とする。
つまり、景吾様はテニス部レギュラーということで、
榊先生、
私も景吾様の従者、音楽での関わりで
榊先生だった。
美澄の母と榊先生が俺を見つめる。
どうしたい、と聞かれると、少し戸惑う。
どうする、と聞かれると、親に従うまでです、
と言うが、
「俺が」どうしたいか、そう問われると、やはり、
迷ってしまう。
本心を、言っていいのか、わからない、
跡部家は、
代々跡部家に仕える。
それが、私で終わってはいけない。
榊先生と関わりが出来たきっかけの、ピアノ。
景吾様に教えていたこともあった。
確かに、ピアノの腕前は榊先生に認められるほど上手だと思う。
そう伝えると、
榊先生は私の目をじっと見つめた。
テニスをする時、
私は歌いながらテニスをしている。
実際に榊先生のピアノのコンクールで
歌を謳わせて頂いたこともあった。
すると、
榊先生は話を変えた。
クリアファイルから、封筒を一つ取り出す榊先生。
そこには、「元イギリス代表 美澄柊乃様」の文字があった。
ペーパーナイフを渡される。
丁寧に封筒を開けると、
日本テニス連盟の文字があった。
男子の合宿で、テニスということは、
景吾様が行くだろう。
母に顔を向けると、母は「景吾お坊ちゃまが行くわよ」
と答えた。
疑問に思い、
少し読み進めていく。
すると、
「メイド」「護衛」「コーチ」
の文字が目に入った。
私のことを知っている方が
日本テニス連盟に情報を流したのかと疑問を抱く。
U-17合宿に居る元主人など、
一人しか居ない。
まぁ、納得はした。
だが、本当に女子の私が行っても良いのか。
コーチとして勤まるかどうか、それが心配だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。