麻酔のため、透明のマスクをしている幸村さん。
もうすぐ、幸村さんは眠る。
この手術が成功すれば、幸村さんは、
また、テニスが出来る。
そう呟いて、ゆっくりと目を閉じる幸村さん。
麻酔が利いてきたのだろうか。
私は、握っていた手を離した。
皆、幸村さんの手術が成功することを
静かに願う。
すると、私の下に電話が入った。
私の方に立海の皆さんが振り向く。
試合の結果を知りたいと言わんばかりに
私の方に詰め寄ってくる。
関東大会決勝、
青春学園が、勝利した。
悔しいだろう。
だが、誰一人として、弱音は吐かなかった。
試合のことは、触れずに、
幸村さんのことだけを考えた。
少し驚いて顔を上げると、
幼い女の子2人と男の子が居た。
よく幸村さんの病室に居る子たちだ。
どうやら、幸村さんは心配させないように
手術のことは黙っていたらしい。
私は長い金色の髪を耳にかけて、
その子達のことをそっと抱きしめた。
笑顔でスタッフさんと駆け寄ってくる幸村さん。
手術は無事成功し、以前のように生活できるように
毎日リハビリをしている。
手塚さんの顔を思い浮かべる。
どうしても気難しい顔しか浮かばない。
ああ、暖かい。
この空間が、とても暖かい。
そう言うと、大きい花束を持った樺地さんが出てきた。
幸村さんはそれを笑顔で受け取り、
はにかんだ。
皆が声を上げて笑い出す。
私はただ立って微笑むだけだったが、
胸は、とても熱かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。