全国大会開会式。
スタジアムの中には沢山の観客。
中学生の大会とは思えない程、規模が大きい。
立海、青学には元主人。
そして氷帝には現主人。
此処が地獄か。
手塚国光。
どうやら、万全の状態でドイツから帰国してきたらしい。
少し目を細めて手塚さんを見つめる。
今回も、本気のテニスを見れるのだろうか。
翠兄さんの指示通りに
景吾様の居る氷帝控え室に向かう。
関係者専用の入り口。
跡部家メイドという名を使い、入ってはみたが、
あまりにも部屋が多すぎる。
青学の近くか、?
と考えながら廊下を歩いていく。
振り返って氷帝の控え室を聞こうとすると、
笑顔で両手を握られた。
この笑顔は、ズルい。
恋愛経験が無い私には、かなり効く。
少々離れて下さい、
そう言えば良いのだが、
緊張してしまって口が思うように動かない。
この魔性の笑みを、何故私に向けるのだろうか。
少し俯くと、
幸村さんはしゃがんで私の顔を下から見つめる。
顔を手で覆うと、
幸村さんのクスクスという笑い声が聞こえる。
駄目だ、これでは任務が遂行出来ない、
私とて年頃の女性。
強く舌を噛み、また控え室を探し始めると、
目の前の扉が勢いよく開いた。
謝ろうと頭を下げると、
私の名を呼ばれた。
頭を少し上げると、
驚いた顔をする手塚さん。
目の前に、居る。
あの、素晴らしいテニスをした方が、
居る。
涙が溢れてしまう。
嬉しいのに、涙が出る。
少し口角が上がった手塚さんの頬に触れる。
しっかり、彼は此処に居た。
手で口元を隠す手塚さんは、
幸せそうだった。
青学の生徒でないのに控え室へと案内される。
少し談笑したところで、
付けていたワイヤレスイヤホンから音が聞こえた。
ゆっくり控え室から出て氷帝の方に向かう。
氷帝、見つけた。
コンコンコンと、3回ノックをする。
すると、不機嫌そうな顔をした景吾様が扉を開けた。
かなり寄り道をしてしまったのは私だ。
怒られるのも仕方がないと思い、頭を下げる。
メイド服の裾をギュッと握り締める。
私を、心配してくださったのか、
優しい主人だ。
従者全員の名を覚え、一人一人の誕生日を
しっかりと祝うだけある。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!