入江さんに案内されたのは、
モニタールーム。
入ってみるとスタッフの方が画面を見ながら
選手たちのデータを黙々と打っていた。
やはりあの監視カメラはデータを取るためだったのか。
小さく溜め息を吐くと、
黒部コーチは金色に輝くバッジをこちらに見せた。
よく見てみると、
テニスラケットとU-17という文字が掘られていた。
このバッジをスーパーやスポーツショップに見せてから
会計をすると、
少し値段が安くなったりするらしい。
受け取ろうとすると、手招きをされる。
バッジを付けてくれるのだろう。
静かに近づくと、
黒部コーチの手で
ワイシャツの襟にバッジが付けられた。
モニタールームから出て、
齋藤コーチと出くわす。
笑顔で「メンタルコーチとしての仕事、してきたよ」
と言われた。
何をしたのだろうか。
気になったので、早歩きでコートに向かう。
すると、ブラブラと使い物にならない腕をした桃城さん。
その前には、こちらへ歩いてくる鬼さん。
十字のラケット。
これは確かに手加減したと言えるが、
桃城さんの腕はイカれていた。
齋藤コーチが言っていた意味がわかった。
ペアを組んでダブルスをするのかと思いきや、
やるのは同士討ち。
つまり、仲間と仲間が対立して試合をするのだ。
日吉さんと景吾様の試合。
次期部長と現部長の闘いだ。
どのペアも、とても気まずそうな顔をしている。
辛いだろう、苦しいだろう。
けれど、これを乗り切らなければ、
成長出来ない。
モニタールームでは着々と脱落者の名簿が作られていた。
この脱落者たちのデータは、どうやら監督に送られるらしい。
此処には居ない、監督に。
数時間前、負け組たちがこの合宿を去った。
越前さんも、去っていった。
ひらめいた!
と言う齋藤コーチ。
何を考えているのだろうか。
逃げられた。
けれど、
此処の合宿所ではなく、山に監督が居ること、
そして、負けた方達もきっと山に居ることがわかった。
少し逃げようかと考える。
すると、景吾様の後ろから見慣れたメンツが。
後ろを向くと、
黄色のジャージを着ている皆様。
とまぁ、逃げる気も無くなったので、
正直に此処にいる理由を話すわけだが、
こんな反応をされるとは聞いていないぞ。
もう少し、こう、あっても良いのではないか。
歓迎とか、無いのか、?
少し声を低くして問い掛ける。
すると、
齋藤コーチが私の後ろに来た。
そうだった。
そういえば、私の部屋も、皆様の部屋も決まっていない。
嫌だ。
このコーチが言うことなどわかっている。
どうせこう言うんだろう。
「美澄さんも」
他の階の空き部屋は、また利用者が増えた時に使うはずだ。
つまり、なるべく開けておかないといけない。
地獄の部屋割りが、
始まるのか。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。