第7話

烙印
28
2021/08/31 10:38
仕事だから、兵士を務めた。


仕事だから、人を殺した。


仕事だから、仕事だったから_______________________










最後に出兵した戦争は、こちらが優勢、残り数人を撃てばかたがつく戦況だった。
上官
残りはお前がやってこい

放り投げられた銃を受け止め、言われたままに動く。
ケイ
ケイ
右方向、家の中……

射撃の姿勢を取り、勢いをつけて扉を蹴り開ける。


するとすぐそこで、女性がじっと土下座していた。


頭を床につけたまま、死んだように動かない。


銃を構えた自分の体が、硬直したのを感じた。
女性
娘がこの家にいます。私を殺すかわりに見逃してやってくだ

言い終わらないうちに、右方向から発射された銃弾が女性を貫いた。
上官
命令が聞こえなかったのかァ!!!!!

罵声と銃口が自分に向けられる。


ばたりと倒れた母親を横目に、部屋に押し入る。
ケイ
ケイ
(頭が、体が、……全部が痛い)
肉体的にも、精神的にも限界を迎えていた。


よろめく体を頼りに部屋の中を探ると、片隅に人影が見えた。


ごくりと生唾を飲み込む。


銃口を向けたのと、その少女が顔を上げたのは同時だった。







母親と同じ、青みがかった瞳だった。
母親と同じ、鼻筋の通った顔だった。
母親と同じ、涙の流れた頬だった。



母親と同じ、絶望が顔に浮かんでいた。






ケイ
ケイ
……くそ


ケイの頬に、一筋の涙が流れる。


少女は死神に取り憑かれたように、目を合わせたまま少しも動かない。


ぎゅっと唇を噛み締めると、口の中に血の味が広がった。


涙の沈黙は数秒続いたが、それもすぐに破られた。
上官
やっぱり、お前は撃てないと思ったよ

あとをつけてきた上官は、予想通り、と呆れた表情を浮かべながら、遠慮なくどかどかと少女の近くへ進む。
上官
……どけ

カチャリと銃が構えられる。


少女の目からすっと涙が流れた。
ケイ
ケイ
やめろ!!!

掠れた声が響き、気づけば銃を奪い取ろうと、上官を押し倒していた。
上官
なっ……
ケイ
ケイ
撃つな!!!
ケイ
ケイ
この子を殺して、何になるんだ!!!
ケイ
ケイ
母はっ……母親は、身代わりになって……うっ

足を撃たれ、その場にうずくまる。
上官
黙れ、次はお前を殺すぞ
ケイ
ケイ
あ"…………ま……て……
パンパンパン





上官
ほら、さっさと行くぞ







少女の顔には、安らかな笑みが浮かんでいた。


手を触ると、急速に冷たくなっていくのが感じられる。


数秒前まで目の前にあった命が、今、燃え尽きていく。
ケイ
ケイ
……う"っ…………

大粒の涙が零れ落ちるのも構わず、少女をそっと抱き寄せる。


再び訪れた沈黙は、ケイの嗚咽だけが響いていた。

プリ小説オーディオドラマ