第5話

結氷
28
2021/08/31 10:27

柔らかな手が、骨ばった手の中で握りしめられる。
ケイ
ケイ
(なんで……)
???
???

「思い出を作りに行こう」


彼女の言葉に頷いた結果が、これだ。


熱々のアスファルトの上を、彼女はうきうきした様子で歩く。
???
???
私、男の人と手を繋いでみたいんだ

なんの恥じらいもなく突然そう言い放った彼女は、ケイの手を握りながら鼻歌を炸裂させている。


彼女の頬が、ほんのり赤い。


ケイは汗ばむ手を握り直し、ぐいっと引っ張った。
ケイ
ケイ
……暑い
???
???
♪~…あっ

その勢いで、そばにあった喫茶店に滑り込んだ。


入り口の鈴が、チリンと音を立てる。


火照った体で席に座ると、汗に濡れた部分が徐々に冷え始める。
ケイ
ケイ
で、俺はいつまでデートに付き合わされるわけ

額に浮かぶ汗を、手の甲でぐいと拭う。


店の奥から、彼女の瞳と同じ色をしたクリームソーダが運ばれてきた。
???
???
一度、デートしてみたかったの

どうせなら、この姿でしかできないことをめいいっぱい楽しみたいと、彼女は笑った。
ケイ
ケイ
ふうん

半透明の時にはよく分からなかった表情が、輪郭を持ってくっきりと浮かんでいる。
ケイ
ケイ
(これが「普通」の日常か)
ケイ
ケイ
(俺も、戦争がなかったら今頃…………)
???
???
あ、ねえ見て
ぼーっと考え込むケイに構わず、彼女は壁に貼ってある夏祭りのチラシを指差す。
ケイ
ケイ
花火大会……
???
???
これ、今日だよ
???
???
ね、一緒に行

突然言葉が切られ、彼女の視線はチラシと異なる場所に注がれる。
ケイ
ケイ
(……指名手配犯の……ポスター?)

夏祭りのチラシの近くに貼ってあるポスターに、彼女の目が釘付けになっていた。


あまりのテンションのギャップにヒヤリとする。

ケイ
ケイ
どうした……
???
???
思い出した
彼女は瞬きもしない。


ケイのこめかみに、冷や汗が流れる。
???
???
私、殺されたんだった

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