柔らかな手が、骨ばった手の中で握りしめられる。
「思い出を作りに行こう」
彼女の言葉に頷いた結果が、これだ。
熱々のアスファルトの上を、彼女はうきうきした様子で歩く。
なんの恥じらいもなく突然そう言い放った彼女は、ケイの手を握りながら鼻歌を炸裂させている。
彼女の頬が、ほんのり赤い。
ケイは汗ばむ手を握り直し、ぐいっと引っ張った。
その勢いで、そばにあった喫茶店に滑り込んだ。
入り口の鈴が、チリンと音を立てる。
火照った体で席に座ると、汗に濡れた部分が徐々に冷え始める。
額に浮かぶ汗を、手の甲でぐいと拭う。
店の奥から、彼女の瞳と同じ色をしたクリームソーダが運ばれてきた。
どうせなら、この姿でしかできないことをめいいっぱい楽しみたいと、彼女は笑った。
半透明の時にはよく分からなかった表情が、輪郭を持ってくっきりと浮かんでいる。
ぼーっと考え込むケイに構わず、彼女は壁に貼ってある夏祭りのチラシを指差す。
突然言葉が切られ、彼女の視線はチラシと異なる場所に注がれる。
夏祭りのチラシの近くに貼ってあるポスターに、彼女の目が釘付けになっていた。
あまりのテンションのギャップにヒヤリとする。
彼女は瞬きもしない。
ケイのこめかみに、冷や汗が流れる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!