花火があがるまで、2人は屋台をぶらつくことにした。
赤と白のちょうちんがレトロな雰囲気を漂わせている。
『私、殺されたんだった』
という衝撃的なカミングアウトに、正直気分は夏祭りどころではない。
ぷいと顔を背ける彼女は、右手にわたあめを持っている。
強引にぐいと袖を引かれ、危うく転びそうになる。
彼女は、何をどこまで思い出したか言わない。
もやもやした気持ちを抱えながら、仕方なしに射的の方へ向かうと、ドンと胸に響く音がした。
花火が上がり始めた。
袖を掴んでいる彼女の手に、力が入る。
花火の音をきっかけに、自分の過去を思い出した。
軍服を身に纏った時の緊張感、目の前で撃たれて倒れる被害者、口の中に広がる血の味。
思い出したくない過去の映像が次々と流れ、一気に心が沈む。
ふと彼女を見ると、自分の袖を握りしめたままじっとしている。
トンと背中を押され、屋台のお兄さんと目が合う。
白い歯を見せて豪快に笑いながら、彼女のために取ってやんなと射的銃を渡された。
妙に重く感じるその銃から、生々しい記憶が引き出されそうになる。
両手が微かに震え、引き金がカチカチと鳴る。
片目を閉じ、銃を構えたその瞬間。
1人の少女の姿が脳裏に浮かんだ。
そして彼女の息を呑んだ音が聞こえた。
銃が手から滑り落ち、地面に衝撃的な音が鳴り響いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!