彼は、慎重な足取りで私の方へ向かってきた。
口をもごもごさせていると、不意に顔を覗き込まれる。
初対面の相手に泣き顔を見られ、恥ずかしいような照れくさいような気持ちになる。
彼と目が合いそうになり、慌てて下を向く。
こんなに悲しくて、悔しくて、不甲斐ない気持ちは初めてだった。
彼の口調が変わり、驚いた私は顔を上げた。
抑揚のない声から伝わる拒絶が、私の胸を貫く。
彼は、重い空気を取り払うように、
と、こちらの顔をそっと伺う。
そこで初めて彼と目が合い、さらにその向こうには街を行き交う人間が見える。
彼は、私がこくりとうなずいたのをきっかけに、ふっとその場を離れて歩き出す。
半透明の彼の後ろ姿は、どこか寂しげに見えた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。