彼は、自分の名前をケイと名乗った。
そして、ゆっくりと瞬きをした後、視線を空に向けた。
人気のない公園のベンチで、彼はぽつりぽつりと話し始めた。
夜を透かす彼の瞳からは、何の表情も読み取れない。
ケイは、自分が死んでいることをあっさり認めた。
何でこんなところにいるんだろうな、と呆れたようにため息をつく。
その先を口にするのは怖くて、途中で言葉を飲み込んだ。
そっけない言い方の中に、何気ない優しさが感じられる。
突然の命名に目が点になる。
彼は口元を押さえて、ふふっと声を漏らした。
意外すぎる発言に、生前の兵士姿と結びつかない。
気づけば、一人で街を彷徨っていた絶望はすでに消えていた。
周りからは夏の虫の音が聞こえ、頭上に浮かぶ満月は神々しく輝いていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!