第3話

月光
37
2021/08/31 10:18
彼は、自分の名前をケイと名乗った。


そして、ゆっくりと瞬きをした後、視線を空に向けた。
ケイ
ケイ
俺は生前、兵士だった

人気ひとけのない公園のベンチで、彼はぽつりぽつりと話し始めた。

ケイ
ケイ
自分が人間だってことを、忘れさせるような毎日だった
???
???
……

夜を透かす彼の瞳からは、何の表情も読み取れない。
???
???
……じゃあ、戦争が原因で、その………
ケイ
ケイ
死因は多分、そうだと思う

ケイは、自分が死んでいることをあっさり認めた。
ケイ
ケイ
もうこんな体、必要ないのに

何でこんなところにいるんだろうな、と呆れたようにため息をつく。
ケイ
ケイ
お前は?
???
???
えっ…
ケイ
ケイ
ていうか、まだ名前聞いてなかったな
???
???
(名前……)
ケイ
ケイ
…?
???
???
……実は私、自分の過去も、名前も……

その先を口にするのは怖くて、途中で言葉を飲み込んだ。
ケイ
ケイ
そっか
ケイ
ケイ
……ま、あんま考えすぎんなよ

そっけない言い方の中に、何気ない優しさが感じられる。
ケイ
ケイ
じゃあ名前は俺がつけてやるよ
ケイ
ケイ
明日からお前、ポチタな
???
???
は??!!
突然の命名に目が点になる。
???
???
そっそんなっ……
ケイ
ケイ
うそうそ、そんな真に受けんなって
彼は口元を押さえて、ふふっと声を漏らした。
???
???
???
???
(……笑っ……た?)

意外すぎる発言に、生前の兵士姿と結びつかない。


気づけば、一人で街を彷徨っていた絶望はすでに消えていた。


周りからは夏の虫の音が聞こえ、頭上に浮かぶ満月は神々しく輝いていた。

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