第85話

遠い場所
798
2023/04/23 10:08
新横浜から新幹線で4時間弱。

そこから電車に乗り換えて1時間弱。





高総体ということもあって

駅からはシャトルバスが出ていた。







体育館に入った瞬間、試合前にも関わらず

雄叫びのように響く声に顔を顰める。







(関西人………?)







相手側の応援はかなり熱心…
って言うのはさすがに聞こえがよすぎる。




圧倒的に多い男の応援が

選手のいないコートにヤジやドヤを放っていた。






青やら紺やら、似たような色に身を包む集団とは

逆サイドに移動してスタンド席の後ろ側へ。





受付でもらったパンフレットを開いて

トーナメント表のページに飛んだ。






(とよたま……)






紙に真っ直ぐ引かれたラインを辿れば

2つめの分岐で容易く山王工業とぶつかる。




この一戦を制すれば、王者とやるんだ。




選手紹介の欄を読み込んでいると

前方でばさりと何かが大きく揺れる気配に目を上げる。





(……うわ、)






飛び込んでくる横断幕の文字に顔が引き攣った。




……流川命。命って。

こんなとこまで熱心な人たちだな……





じゃあ自分はどうかと思い直して、縮こまる、




こんなとこまで来たもんな。電話1本で。
全然ひとのこと言えないじゃんね。







 晴 子
鳴海先輩!
…あ、久しぶり?







ぽんっと叩かれた肩に振り向けば、

にこにこしている晴子ちゃんだ。






 晴 子
先輩も応援来てたんですね!
うん、まあ、そう…
 晴 子
全国なんて…夢みたい







晴子ちゃんはそう言ったけど、

別に不思議じゃないかなとわたしは思った。




そのラインはもう超えてる気がする。

決勝リーグに進んだのが夢みたいだったじゃん。






………あ、
 晴 子






わたし、湘北の全国行きに立ち会ってないな。



流川の言う"今度は"ってそれのこと?

…なんか流川って、意外と覚えてるよね。







 晴 子
なんだか私まで緊張してきちゃう…
そう?
 晴 子
先輩はリラックスしてますねぇ…







100%や、絶対、なんて数値は

この世に存在しないものらしい。




それでもわたしは、勝つんだろうなと思う。

流川がいるし、流川がああ言ったから、勝つだろう。

山王とやると、はっきり口にしたから。






 晴 子
あっ、私そろそろ戻ります!
うん、わざわざありがとねえ







歓声が突然に体育館を響かせる。

両チームの選手がコートに入り始めた。




赤と青、対照的に目立つ色同士。

男のヤジや女の嬌声が主役を囲うように大きくなる。





彼らが緊張してるのかは正直わかんなかった。

ただ、あの輪にいる1人を除いては。






(ずっと勇ましいよなあ……)







流川は、地方の予選でも全国でも、同じだ。

場所が変わろうが、彼は変わらない。




勝つことだけを考えている。

それ以外は要らない。






あの姿以上に頼もしいものって、あるだろうか。






やっぱり緊張も心配も必要ないなと

改めたところで、機械的なホイッスルが鳴り響いた。


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