第86話

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2023/04/26 09:42
怒号飛び交うギャラリーに顔を顰めつつ

見下ろす試合はド初っ端から飛ばしていた。







うちじゃなくて、相手のチームが。







ヤジに慣れているのか、むしろ追い風なのか

それとも、風を吹かしてるのは選手たちの方?








(なんかびゅんびゅんしてるな…)








試合の流れが速い。

相手の方が勢いにノッている。









花道くんとマッチアップしてる
ロン毛の5番は、たぶん煽り屋だろうな。





花道くんからすれば相性が悪いだろう。



彼、スルースキルなさそうだもん。

…たぶんわたしも、あいつとは合わない。








(…リョータもイラついてるし)







ガードの6番も、
たぶんロン毛と同じでリョータを煽ってる。






リョータはあの場で言い返しはしない。

けどその分、我はプレーに出る。




そしたら相手のドツボにハマる。








(……ガラわる〜…けど、)







ぽんぽんと点を決めていく豊玉高校は、

初めてチーム性を目にした人にとって

"感じ悪い"印象を抱くには充分だった。






………でも、だよ。






おもしろいな……







攻撃を軸に試合を進めていく、

ランアンドガンスタイルのバスケは、面白いんだ。





点の取り合い、奪い合い、競り合い。

そんなバスケは見ていて楽しい。






勝つことだけを考える。後手には回らない。






その闘志が溢れ出るチームは、ひとを熱くさせる。

相手の応援がやかましいのも納得してしまう。






けどそんな最中で、浮いてみえる選手もいた。








(…流川静かだな)





















早い段階で花道くんがベンチに移り

安田がコートに入ってくる。







中で走り回っていると状況すべては見通せない。

外から俯瞰的に見る分には納得の選手交代だった。







安田がカンフル剤としてチームを回し始め

やっと歯車が噛み合い、キャプテンを筆頭に動き出す。









ゴール下、3人にマークされたキャプテンが

誰かにパスするかは決まっていた。









流川が瞬時に移動して、

取りやすい位置でボールを待つ。

そしてシュートフォームまで、ほんの数秒。








……うわ







不意に出た声はギャラリーに掻き消され、

親衛隊が彼の名前を甲高く叫ぶ。






ボールは高く弧を描きリングを抜けて、

当の本人はなに食わぬ顔でくるりと身を翻し走る。







綺麗だよね、流川は。

ぶれないフォームも、空中にいても、走り姿も。











……あ…、







守りに走る赤色の選手たち。

キャプテンと言葉を交わす流川の、とある仕草。




それを見たとき、
思う程度だったわたしの推測が、確信に変わる。







(…勝つねえ、これは)







スナップを利かせるように

クイクイと手首を軽く振ってみせる。




流川が示したその仕草は、中学時代に見覚えがある。







今日の流川は、調子がいい。






なっつかしー…






調子がいいとき、あの仕草は出てくる。

たぶん流川は無意識の、癖みたいなものかな。





中学時代、彼がアレを見せた日は負けなかった。





誰かに示してるのは初めて見たけど。
いつも1人で黙って動かすだけだったのに。






(お、抜いたー)





相手の4番を素早く躱し、

流川が放った球体は電光掲示板の数字を増やした。





(すごいよなー…ほんと)







勝つとわかっていても流川のプレーは面白い。




映画のネタバレを見るのが嫌なわたしでも

そう思わせてくるから、あいつは凄い。










相手の4番にボールが回り、

ディフェンスで流川が張り付いた。







まあ、タダで抜かせはしないでしょ。






なんて思っていた瞬間だ。






えっ……?






なにが起きたのか、見てたのに、わかんなかった。






大きく、たくましく、頼もしい流川の体躯が

ガツンッ!と強い勢いで傾き、横へ倒れる。





それはほんの一瞬の出来事で………







 晴 子
流川くん!!








よく通る女の子の声が鼓膜に届いたときには


その後輩は飴色の床に横たわっていた。


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