第83話

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2023/04/07 16:13
持ち味というのは、それぞれにあるものだ。





リョータならドリブル、寿くんならスリー、

キャプテンはリバウンド、花道くんもそっち系。







ナイッシュ〜






ご飯を食べてから駄弁ったのち、

公園のベンチでバスケを鑑賞中。





彼が手先で運んだボールは軽くネットを揺らす。

声を上げると、
くしゃりと前髪を掻き上げた男が振り向いた。


ツンツン頭の見る影なく

掻き上げられた髪はすぐにぱさりと額を覆う。






髪、上げてる方がいいね
 仙 道
なんだよそれ、今言うの
仙道ファンには悪いけど
 仙 道
はは、思ってねーだろ?






彰くんのバスケは、想像通りだった。



なんでもそつのない彼のことだから
そりゃあバスケも上手いだろう。



その通り、軽い身のこなしで彼は動いた。





これがどういうことかは知っている。







試合が見たくなるね






この人の本当の上手さは、1人ではわからない。

たった1人でボールを操るだけでは、
上手いなあ、で終わってしまう。






試合でこそ本領を発揮して輝く。

敵がいてこそ、瞳に熱意と意思が宿る。




ポインターの持ち味ってたぶんそれだ。




そういう逸材がいることは、もう知ってる。








 仙 道
見に来てくれていーんだぜ
練習試合?あるんだ?
 仙 道
招待しようか?キャプテンの計らい
え?
 仙 道
ん?
キャプテンなの?
 仙 道
ありゃ、言ってなかった?








聞いてないけどキャプテンなら、
終業式にサボったのまずかったんじゃないの。

まあ過ぎたことは仕方ないか。





過ぎたことは考えても仕方ない。


他人のことなら、こうも簡単に諦めがつく。







……流川とやって戦績どう?
 仙 道
んー?まー、今んとこ俺の勝ち
えーすごい、
負けないって言ってたもんね
 仙 道
負けねーよ、バスケなら






なにかを含んだような表情を見つめていれば

ぽんっとボールが向かってきて、とっさに手が応えた。





 仙 道
選手交代しよーぜ






固いゴムの感触は全然手に馴染まない。

しっかり握るのはいつぶりだろう。





リングのそばから振られる手に誘われるまま

腰を上げフリースローラインに立った。



重心を落としてから膝をくんと伸ばし

高めに放ったボールはボードにぶつかり、
赤で縁取られた円形を難なくくぐる。






 仙 道
おっ、さすが
ラッキーもいいとこ
 仙 道
今度勝負してもらおーかな
しませーん






小気味良い音が鳴ると、たしかに達成感は湧く。




でもわたしはやるより、見る側がいい。

……見る方が好きだと思わされたことが、ある。






…部活って最初手合わせするじゃん
 仙 道
あぁ、うちもやる
テキトーにチーム組ませて
…中2のときも、それやってさあ…
…そっから、見る方が好きなんだよね
 仙 道
へー…?







こんな凄い子がいるんだな、と思ったし

こんな感じ悪い子がいるんだ、とも思った。




初めて顔を合わせたときの流川は

人見知りとかでフォローできないくらい仏頂面で
目つきが悪くて、声は今より高くて小さくて。




そしてプレーには意思があった。

我の強さともいえる意思が。








 仙 道
…なあ、そっちもう全国だろ?
え?あー、うん、そだね
 仙 道
行かねーの?
…迷ってる







日本一になると宣言を聞いたあの日が、

もう、すごく遠い。




山王を当たり前に倒すと言った流川に、

それなら見たい、と思った自分も。




たしか最初は、寿くんの勇姿も見たいしとか

そんなことを考えていた気がするのに

今はまるで頭に浮かばない。






………







行ったとして、どんな気持ちで見る?

素直にはしゃげるメンタルは持ち合わせてない。







あの子は行くって言ってたな。

そうして図書室でのやり取りが思い浮かぶ。






全国のあの場で、あの子と流川が一緒にいたら。

それを見たら、

きっと自分の心はそこで折れる気がした。




今度は、腹も立たない。

きっと、底まで沈み切ってしまう。




怖い、と思う。








 仙 道
……さー、そろそろ送ってくよ






ボール1つで家を出てきた彰くんに頷いて駅へ向かう。





湘北高校バスケ部は初めてのインターハイ。

記念すべき日だ。
あそこで誰かの世界が変わるかもしれない。





 仙 道
…浮かない顔してんなあ
……考えごと





湘北の全国行きが決まったとき、

見に行けばよかったって思ったんだよね。




また、後悔するかな。






 仙 道
…なー、あなたちゃん
うん?
 仙 道
俺は君が好きだろ







手の甲が顔を這ってなでる。



眉を下げたやわらかい目つきに、

脈絡なくするりと出てきたそんな言葉。





…知ってるよ…
 仙 道
うん、でもさ、覚えといてよ






手の甲は肌から上へ滑っていき

それからぽんと、あたたかい手のひらが
わたしの頭をなでつける。




流川は力加減なんか知らなかったな。

こんな時でさえわたしはそう思ったのだった。


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