ウパパロンとみぞれもんが船長を叩き起こしに船内へと消えていくのを見送りつつ、残された船員たちも早めの朝の準備に取り掛かり始めた。
…とは言っても、常に仕事があると言えるような航海士等とは違い、平時には暇を持て余すような役職持ちばかりいたので、準備とは名ばかりの呑気な時間とも言えたが。
夜明け頃特有の冷気が皆にとっては心地よいものだったが、Latteにとってはそれすら肌寒いものなようで。
だんだんと身体に寒気が染みてきたのか、徐々にくしゃみが飛び出す間隔が短くなっていっている。
…その姿を見るたびに、ディザイアで彼女が残した謎についてがチラつく。
どこか、その異質な体質との繋がりを連想させる奇妙な謎だが…きっと船長が話に入る頃に触れられるだろうと思い、誰もこの場で突っ込むことはなかった。
そこでふと、みぞれが船の外へと目をやる。
遠くに微かに見える…恐らく商船だろう船が横から迫ってきているが、見る限りある一点で衝突しそうな位置にお互いがいることに気付く。
このまま互いに前進していればぶつかるのではないか……そう思い素早くぐさおが舵の前へと立つが、もしあちらも気付いていて互いに同じ方向へ避けようとしても困る。
タイミング悪く航海士も不在な中、下手に動くこともできない。相手側が避けてくれるのを信じるしかないだろうか。
しかし相手も動く気配がない。このままだと衝突は避けられないと直感する。
ならばやむを得ないか——航海士を呼んでる暇もないし、この場ですぐに判断するしかない。
微かに方角をずらせば衝突は免れるはず。それくらいなら航海士なしでも大丈夫だろう…そう思っていたのだが。
直前で、向こう側もふらふらとよろめくように進路を変えてきてしまう。
最悪の展開だ。即座に切り返そうとしても距離的に間に合わない——ダメだ、ここから避けるなんてできっこないのは明白だ。
その声が飛んだのとほぼほぼ同時に、ガコンと鈍い音がして船が大きく揺れた。
衝撃が波に伝わり更に船をゆらゆらと左右へ弄ぶ—— 幸い船が沈みだす気配はなかったが、油断したらそのまま海原へ放り飛ばされてしまいそうになる。
…他の海賊団からの襲撃等を除けば、ここまで事故らしい事故も初めてだ。
なんとか、船も船員たちも持ち堪えたようでひとまずは安心する。
…だが、今度は相手側の船はどうだろう。そもそもあの船は見た限り海賊でも海上警察でもない普通の商船のはず、海賊である自分たちとトラブルが起きれば、何かとめんどくさい事になるに決まってる。
皆がそのことをなんとなく理解して冷や汗を垂らしていると、ふと商船の側から声が聞こえた。
慌ててLatteがそちらの方へ向かうと、困り顔の男性が船から身を乗り出している。人が来たのを確認して、彼は言葉を続けた。
男はそう言ってじゃらじゃらと音の鳴る袋をLatteに強引に握らせて撤収していく。
…戸惑いつつも、返す理由もないのでまあ受け取っておくかと懐にそれをしまった。…正直、お金云々よりも商人たちとトラブルが起こらなくて内心ホッとした面の方が強かったので、あまり気にしないのに…と思いつつ。
その時、去ってゆく商船から聞こえた会話がふと耳についた。
先ほどの男と、操舵手と思しき男の会話。……寝ぼけてたって言っていたし、さっきは例の操舵手が面舵と取舵を間違えてしまっていたのだろうか。
…その割に、操舵手の口ぶりはどこか不自然な気もする。
なんとなくだが……寝ぼけて忘れてしまったというよりかは、まるで——最初からその概念を知らなかったような、そんな感じの。
まあ、深く考えたところで得する訳でもないだろうし、そのお陰でトラブルを上手く回避できたのでありがたかったと思っておこう。
予想外の事態に見舞われはしたが…それ以上面倒な事が起こることはなさそうで、一安心した。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!