「…………橘さん。どういう事??」
だってその相手は、オミさんだったのだから。
予定は変わり、私としおちゃんはカフェの入ったビルの外にある広場にて、ベンチに座りながらオミさんと話す事になった。
ちなみにオミさんはこの辺に住んでいて、今日は午前中がテレワークで、午後休の日だったとか。なのでさっきまで私達が食事していたあのカフェで仕事をしていたんだそうだ。
オミさんにバレてしまった以上、もう終わったと思った。
オミさんに全部事情を話している時も、オミさんは一見優しい表情で聞いてくれているようにも見えたが、それとは裏腹に、とてつもなく冷たい表情に捉えることも出来た。
オミさんが今、どんな気持ちで私の話を聞いているのかが全く読めなくて、とても怖かった。
「ずっと黙っててごめんなさい」
と、私はオミさんに深々と頭を下げた。すると横にいたしおちゃんも、
「ごめんなさい。私も展示会で大学生だと嘘をついてしまったので」
と言ってオミさんに謝っていた。
「………」
オミさんは何も言って来ない。その代わりに小さく鼻でため息をついているのが聞こえてきた。
「オミさんにはいつか言わないとって思ってたんですけど……知られてしまったら、もう仙名さんやオミさんと関われなくなっちゃうんじゃないかって考えたら、どうにも言えなくて……」
こんな事言ったって、それはただの言い訳に過ぎない。
「本当にごめんなさい!!」
あの優しいオミさんが、無言のままのこの時間が想像以上に恐ろしくてならなかった。
オミさんは絶対に私達に対して怒ってるんだ。
するとオミさんはベンチから立ち上がり、私達の方を見ることなく、
「電話してタバコ吸ってくる。PC見てて」
と言って、クラッチバッグだけ置いてそのまま数十メートル先の喫煙所の方へと姿を消して行った。
「伊央里……。平気?」
私は既に半泣き状態だった。
「しおちゃん、ごめんね」
「伊央里ー!私は大丈夫だよ!」
と言って、しおちゃんは抱きしめてくれた。
「電話してくるって……多分、いや……絶対に仙名さんだよね」
と私。
「うん。私もそんな気がする」
それから暫くして、オミさんが戻ってきた。オミさんは口にタブレット菓子を含んでいた。
それからベンチに座り、こう言った。
「金城さんも、間宮さんも、それでもキャンプには一緒に行こうだってさ」
「え……!?」
私もしおちゃんも、オミさんの方を見て目を丸くした。
オミさんは言った。
「事情は分かった。でもね、どんなに好きな人に会いたくたって、やっちゃいけないことはやるもんじゃないよ。だから君はもう18歳以上のイベントには出入り禁止。何かあったら本当に危ないから。良いね?」
「はい」
オミさんは私の顔を覗き込むようにして、
「約束できるか?」
と、圧をかけてきた。
「はい!約束します。本当にすみませんでした」
私は再度オミさんに頭を下げた。隣に座るしおちゃんも必死に頭を下げていた。するとオミさんは立ち上がって私達の前に来ると、ワシャワシャと両手で私達の頭をなでてくれた。
「なんか飲む?」
「……え?」
私はオミさんの言葉に顔を上げた。オミさんは奥に来ていたキッチンカーを指さし、
「そこになんか、キッチンカーのお店あるよ。暑いし喉乾かない?」
と言って、いつもの笑顔を見せてくれた。
「オミさん……」
私はオミさんの優しさに涙した。
「ちょ、なんで!泣くなよー!」
「だってオミさん優しいからーー」
この出来事を機に、私は1つ肩の荷がおりた感覚を得た。それから、今まで以上にオミさんの事が大好きになった。
ちなみに、仙名さんにはこの事は黙っててくれるとの事だった。
これで、私達が高校生だと知っているのは、オミさんと金城さんと間宮さんの3人になった。
そしてキャンプ当日。
何だかんだでこの日は映太も来れるようになったので、映太もやって来た。大登は合宿と重なってしまい、結局来れなかった。
移動はオミさんカーと間宮さんカーに分かれて乗車。私は映太と金城さんと一緒に間宮さんカーだ。
オミさんと展示会にて面識のある3人をオミさんカーに乗せた。しおちゃんに至ってはこの間もオミさんに会ったし、何ら問題は無いだろう。
「あら、じゃあその大登くんって子とはそれっきりちゃんと話せてないんだ?」
こっちの車では私の恋バナになっていた。
「そうなんですよ……」
「つーか、おい伊央里!!俺今その事知ったんですけど!!!!」
と映太。
「あれ!?女子にしか言ってないっけ?いや、奏也には言ったか…?」
「俺を抜かさないでくれる!?」
高校生だと打ち明けた事で、私達は気兼ねなく楽しむ事が出来た。
キャンプ場に着いてからは、早速食材を仕込んでバーベキューをした。
オミさんや間宮さんの焼いてくれたお肉や野菜、エビも全部美味しくてたまらなかった。焼きそばは私達が分担して作ったんだけど…
「映太へっったくそ!!マジ!!太すぎなんだよ人参!!」
「はぁ!?さっき確認したらこんくらいで良いって汐奈が言ったんじゃんよ」
「私そんな事言ってない!!」
「言ったね!!普段から適当に返事ばっかするからこんな事になんのー!」
「お前、幻覚でも見たんじゃね!?」
と、いつもの映太としおちゃんの言い合いが始まった。それを隣で見守る金城さんは、
「伊央里ちゃん、あの2人良い感じじゃない!?」
と、私の肩を叩きながら小声で声をかけてきた。
「そうなんですよ!喧嘩するほど仲が良いってやつです!!」
そんな描写もあり、昼ご飯を終えた私達は、
川でカヤック体験をやっていたので、みんなでカヤックに乗って遊んだ。
その後は、
「きゃー!!冷たい!!」
冷たい川に入ってみんなで大盛り上がり。
高校生の私達に混ざって、オミさんも高校生さながらのはしゃぎようだった。
「オミさん最悪!!かけすぎですよ!!みんな!一斉にオミさんに攻撃だー!」
と、私が声をかけみんなでオミさんに川の水をかけた。なのでオミさんが1番濡れていた。
「オミ、若い子には勝てないねぇ」
なんて、後々金城さんに笑われていた。
「うっさいわオバハン」
「お!!オバハン!?」
オミさんはTシャツを脱ぎ、それを川で絞って立ち上がった後、
「酒飲みたくなってきた。間宮さん、この辺の川で冷やしてくれてるんだよね?」
と金城さんに問いかけていた。
「ねぇ伊央里!ヤバい!!」
その時のオミさんの体にしおちゃんも香美も大騒ぎ。バキバキに鍛えられたその腹筋。オミさんがこんなかっこいい体してるなんて、私は知らなかった。
でも、オミさんの体を見るのが恥ずかしくなった私は、途中目を逸らしてしまった。
夕飯はみんなでカレー作り。こういう事をやっていると、小学校の時の体験学習を思い出す。その時もみんなで火を起こしたりしてカレーを作ったな。
カレー以外にも、野菜を一口大に切ってチーズを蕩けさせ、チーズフォンデュもやった。
「アルプスだアルプス」
と奏也。
「いや、アルプスじゃなくても食べるでしょ」
と香美が突っ込む。そして間宮さんからの声掛けにより、
「わ!!星!!凄い!!」
「すげー!!!!」
我々高校生は星を見て大騒ぎ。
「あれ!!あれかな!?夏の大三角形!!」
「だよね!!うわぁ、都心じゃ星なんて全然見えないのにー!!」
こうしてはしゃぐ私達を見ながら、オミさん達大人勢はホッコリした様子で私達を眺めていた。
この星空、仙名さんにも見せてあげたい。
そう思って、私はスマホのカメラで星空を撮影した。
その夜、私は川辺の近くに座って、1人で夜空を見上げるオミさんを見かけた。
「オーミさんっ」
振り返ると、オミさんは加熱式タバコを吸っている所だった。
「おお……」
「隣、良いですか?」
「うん」
オミさんは私が来た途端タバコを吸うのを止めて、一式をポケットにしまいだした。
「あぁ、別に良いのに」
「良いよ。嫌いな子もいるじゃん」
と言ってポケットにしまった後、入れ替えのようにタブレット菓子を取り出してそれを何粒か口に含んだ。
その後、私はオミさんに仙名さんの事を尋ねた。
「仙名さん、鹿児島に出張に行くって言ってましたけど、もう帰ってきました?」
「……あぁ、とっくに。向こう行って2日程で帰って来たし。俺らは今夏季休暇中だけど、向こうは今日も出社してたんじゃないかな」
「あぁ……そうなんですね。クソー……やっぱり帰ってきたって連絡なんか来るわけないか…」
私は仙名さんから連絡がない事が悔しいという気持ちをオミさんに話し、数週間前に2人でボーリングに行ったことを話した。
そこでの仙名さんの話をして、私はたくさんオミさんに惚気けた。
「仙名さんったら、やっとこさストライク出してやったー!ってガッツポーズするんですよ。めちゃくちゃ可愛くて!」
と話していたら、オミさんから意外なことを言われた。
「社長の話ばっかりで嫌だ」
私の顔を見つめるオミさんは、ムッとした顔をしていた。しかもそんな顔で、
「ムカつく」
と呟いてきた。
何が起きたのか分からなくなった私は、思考回路が停止した。
「……あぁ……ごめん。なんでもない。酒飲みすぎたなこれは。俺、もう寝るわ」
ハッとなったオミさんは突然立ち上がり、一緒に持ってきていたランタンを持って私にそう言った。
「あ……はい………」
「ほ、ほら……橘さんももう寝なさい?ね?一緒に戻るよ」
何故だろう。なんでオミさん、こんなに動揺してるんだろう。
でも、次の日の朝にオミさんに会っても至って普通。
「オミの作る焼きおにぎりうめーぞ!」
と間宮さん。横で金城さんがミネストローネを作っていた。
オミさんは、昨日一緒に私と川辺で話した時のことを全く覚えてないんじゃないかくらいにスッキリとした顔をしていた。
そんなオミさんに何故かムカついている自分がいた。
NEXT▷▶︎▷▶︎第8話
あれ?伊央里!?(๑ ิټ ิ)
今回はちょっと高校生強めのテイストでお送りしました✨
これも青春ですね😍❤️
次回はまたダークな感じに!?
お楽しみに!!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。