以降、俺は大学を卒業後、一流企業に入りつつも、人脈を集めるべく都内で行われる社会人交流会に参加したり、当時まだ数少なかったSNSを使ってDMを送り、実際の企業の社長さんに会いに行ったり、投資家の人に話を聞きに行ったり、セミナーに参加するなどして、たくさんの人脈を得た。
その中でいろんなビジネスを経験し、副収入を稼ぎ始めた。たくさん失敗もした。騙されて100万の借金をすることになって、危うく自己破産もしかけた。それでも俺は、収入=人間としてのステータスだと言い聞かせ、大金を稼げるような奴になろうと必死にのたうち回った。
俺がそんなになってまで努力出来たのは、
社長になって、一刻も早く安西と並べる関係になって復讐をする。
これを常にモチベーションに生きてきたからだ。
俺にとって安西は、殺してやりたいくらいに憎い相手だ。アイツへの恨みは一生消えることは無い。
24歳。やっとこさ生計を立てられるようになり始めた頃、その時に俺を救ったのが前園さんだ。最早、前園さんが俺を稼がせてくれたと言っても過言ではない。前園さんとのビジネスでの出会いが功を奏し、俺はそこでのビジネスパートナーだった貴之を誘い、一緒に会社を立ち上げる動きを始めた。
こうして数年後、俺が25の時に前園さんの経営する会社 (株) Frontier LINKの子会社として俺達は会社設立を成功させた。
しかし一方で、
幸せかと思われた清香は、確かにお金や生活面は約束されていたが、安西の女癖は直らず、家に帰ってくる事も少なかったという。
清香は結局蚊帳の外。安西家の別邸に住まわされていたのだ。 それを俺は、蛭間くんと峰子さんから聞いた。心配になり連絡を取ってみると、清香自身から会おうと言ってくれ、別邸に招いてもらった。驚いた事に、この時の清香は鬱状態で、ほぼほぼ心が無い状態になってしまっていた。
「辛いのなら、離婚した方が良いんじゃ?」
「……誰がお前の生活支えてやってると思ってんだ?って、いつも言われる」
この時も清香のお母さんも病気で入院中で、それも全て安西が出してくれているそうなのだ。
清香をこの生活から一刻も早く救い出したい。俺はその一心で清香に、
「俺が必ず清香を助けるからな」
と言うも、
「遥輝は余計なことしないで。あなたが何かして、旦那に狙われたら何されるか分からないわよ?」
と、結局清香に帰されてしまった。
今の会話をしたのが23歳の時。それから2年後に、闘病の末、清香のお母さんが亡くなったと本人から連絡を貰った後、突如彼女と連絡が取れなくなった。
別邸を訪ねるも家政婦さんしかおらず、清香の行方が分からず連絡も付かないと言うのだ。
テーブルには、清香の箇所だけ記入がされた、離婚届が置かれてあったという。
清香はきっと、お母さんの命の為に、ずっと苦しさに耐えてきたのだと思った。
愛のない結婚なんて辛いだけ。
俺だったら……と思ったら、悔しくて涙が溢れた。
俺なら彼女を愛せた。安西よりお金こそなかったかもしれないけど、絶対に俺の方が彼女を幸せに出来た。
清香自身を変えたのは、全ては安西が清香に近付いたからだ。
あんな、金だけ渡していろんな女性と関係を持って、清香に一切の愛を与えていなかった安西の事は一生許せない。
だから俺は、行方知らずとなった清香の居場所を探るべく、会社を経営しつつイベントを開き、そこに来てくれた人のアンケートのデータを見た上で、手がかりを掴める見込みが1%でもありそうな人にずっと声をかけ続けた。
そして30代になり、会社の事業も拡大し始めた所で俺から安西に近付いた。無論安西は、俺があの時の大学生であるだなんて、微塵も覚えちゃいない。
そこから俺は信頼を構築し、安西不動産グループの物件に当社の機器を導入して貰えるまでの関係になった。
そう。だから俺は、社長になったんだ。
全ては、安西への復讐の為に。
「遥輝!!答えろ!!!!」
と、俺の目の前で取り乱す貴之。すると安西は俺の髪を放して立ち上がり、フッと鼻で笑いながらこう言った。
「根屋さん。否定を出来ないという事は、そういうことなんですよ。彼は間違いなくあなたを利用していたんです」
俺は咄嗟に、
「違う!!」
と叫んだが、
「じゃあ何故顧客リストから俺の名前を探そうとしてたんだ?居酒屋での動画を拡散したのも、どうせ君なんだろう??」
と言って、俺の体を蹴っ飛ばしてきた。
「さぁ、データを渡せ」
「無駄だ。もう警察が証拠は押収してるんだ!!」
「それももう時間の問題だ。今、奴らが警察のシステムをジャックして、データを消そうと試みている。君のスマホに搭載されてたGPS機能も奴らに遮断させた。助けなんて誰も来ないぞ」
それを聞いてヒヤッとした。
「なんだと…!?」
「君は入念な男だからな。持っているんだろう?顧客リストのバックアップデータを」
「俺は持ってない!!」
と言うと、さらに強く俺は蹴飛ばされ、鉄の棒で何度も体を叩かれた。
「どこにあるんだ。渡せ!!」
「本当に持ってない!!」
すると安西は、手下達に
「コイツのカバンの中身を確認しろ」
と指示をした。
「無駄だ。そこには無い」
「じゃあどこにあるんだ!!!!さぁ、吐け。吐かないのなら、こちらにも手がある」
「は?」
すると、奴らは本当に汚い手を使ってきた。
なんと、俺の目の前にロープで手を縛られ、男に拳銃を頭に向けられた橘さんが現れたのだ。俺はそれを見て目が飛び出そうになった。
「橘さん!!!!」
「さぁ、データの場所を教えろ。さもなくば今ここにいる彼女を殺す」
と言った。それと同時に手下は銃の引き金を引いた。
「やめろ!!!!!」
と叫ぶ俺。橘さんは涙を流し、恐怖のあまり体を震わせて声すら上げられない状態になっていた。
「可哀想に。君もまた“彼に利用されていた“ ”んだよ」
と言って橘さんの心を揺さぶってきた安西。俺はそんな安西に、
「彼女を離せ!!」
と言った。
「あぁ、君が顧客データの場所さえ教えてくれればね」
彼女をこんなに危ない目に遭わせるなんて許せない。俺はその一心で、
「卑怯者!!」
と叫ぶも、
「卑怯者?どの口が言っているんだね?彼女を利用した君も同罪だよ」
と言われてしまった。
確かに俺は、復讐をする為に“彼女の存在を利用した”。でも、命の危険に晒すような真似をしたかった訳じゃない。
俺は橘さんを助けたくて必死で藻掻くが、ロープは解ける事無く俺の行動を強く縛り付ける。すると別の手下達がが俺の事を殴り、蹴り飛ばしてきた。
「仙名さん!!!!」
そんな俺を見て橘さんはここで初めて声を上げたが、橘さんを押さえる拳銃を持つ男にすぐさま、
「黙れ女」
と言われ、グリグリとより強く銃口を押し付けられてしまった。
「ひぃ……!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
こんなの酷すぎる。
頼む。
頼むから彼女の事は解放してくれ!!!!
「やめろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!彼女に手を出すな!!!!彼女はまだ、“高校生”だぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その時だった
NEXT▷▶︎▷▶︎第11話
遥輝と伊央里、大ピンチ‼️‼️‼️‼️‼️
そして何故遥輝は伊央里が高校生なの知ってんの❕❓❕❓
伊央里を利用してたってどういう事⁉️⁉️
次回、最終回です‼️‼️‼️‼️
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!