桜舞う4月、僕は男子高校生になった。いや、”なってしまった”の方が正しいかもしれない。
小中陰キャラで友達なんてできたことがない、学力がある訳じゃないし顔がいい訳でもない。運動神経も良くない。
ただ、誰よりも僕が得意なことはそんな冴えない男を演じられる僕の演技力だろうか。
実際高校生にはなりたくなかった。今までは勉強しなくても学年が上がれた。しかし高校は勉強してテストを受けて単位を取得しないと卒業出来ない。そのルールは僕の得意分野を阻害する事になる。だから高校生にはなりたくなかった。中卒でいいじゃないって意見もあるかもしれない。ただそれだとこれからこの世界では生きて行けない、大学は卒業しなければ、生きて行けない。この世界で。
なんてことを1年A組のこのクラス、窓際の1番後ろの席で外を見ながら考えていると、先程の入学式で先導してくれたA組の担任水原先生が「おつかれ〜」と笑顔でクラスに入ってきた。水原先生は女性の先生で女優みたいなルックスをしている、みんなは美人な水原先生をさっきよりもまじまじと見れてザワついているが、僕はさほど驚かない。
「さあみんな席に着いて、第1回ホームルームを始めます!」
水原先生の一言で一斉に席に着く。まだ若そうなのに一瞬でまとめるなんて凄いな。そう思っていると、「まずは自己紹介をしましょう!」
きた、ここで僕の演技力が試される。みんなに「こいつ陰キャだな」「近づかないようにしよ」って思わせられれば勝ち。まさか僕の演技力に騙されないやつはいないだろう。
「ではまず先生から自己紹介します!」
「先生の名前は水原早苗です。趣味は料理でよくお茶会に行きます、運動する事も好きです!これから1年間よろしく!」
水原先生の自己紹介はテンプレで普通の人が同じ文章を読んだら間違いなくつまらない話だっだろう。しかしその笑顔とハキハキした話し方で何故か教室中の緊張感がなくなった気がした。
「さあ、じゃあ出席番号1番安藤君よろしく」
「は、はい」
安藤と呼ばれた男子は緊張してるのか太っているからなのかとても汗をかいていた。
「は、はじめました安藤竜です。趣味は」
最初でやってしまった感はあるがこの子のおかげでさっきよりも幾分緊張感はなくなったと思う。
このクラスは34人、僕の番は16番目。まだ僕の番は来ないだろうと窓から外を見ていると、体感で約1分程経った頃。
「次、鮫島君!よろしく」
え、はや。さすがに早過ぎないか、まぁ良いか手早く済ませて陰キャと言うイメージを植え付けよう。
「初めまして、鮫島樹(さめじまいつき)です、えーと、趣味は特にないです。僕と話しても楽しくないので話しかけない方がいいです。以上です。」よしっ決まった!これで誰とも話さず僕の正体を隠して行けるぞ!
「お、陰キャだ」
「クラスに1人はいるよね」
「暗すぎ、うふふ」
後ろの席に戻る途中、ひそひそと聞こえてくる発言に僕は優越感を覚えた、してやったりだ。
席に戻ってから一瞬で最後の人の番が来た。
水原先生が「じゃあ最後吉原さんよろしく!」
と吉原を呼ぶと、隣りの席から
「はいっ!」とクラス中がびっくりしみんながこっちを向くという状況になるくらい大きな声を出した。
その吉原は堂々と前に出ると
「吉原由梨です!趣味は猫ちゃんを可愛がることです!みんなとも仲良くしたいのでよろしくお願いします!」
と誰よりもハキハキと堂々と自己紹介をする様にクラス一同大きな拍手をおくる。やっと終わったか、そう思った瞬間
「あ、最後に言いたいんですけど、そこの窓際の鮫島樹くんは陰キャじゃないのでみんな仲良くしてあげてください!以上!」
笑顔でそう言い切った吉原由梨は僕の目をものすごい目力で見ながら席に戻る。
クラス中がまたざわつきはじめた。
てかなんなんだこいつ、僕の何がわかる?てかなんでバレた!こいつは不思議ちゃん系か、関わらないようにしよ。と心に決める
「クシュン」さっきからくしゃみが止まらない。
「さて、自己紹介終了!今日は解散、また明日会いましょう、明日から授業だから教科書忘れないようにね!」
「はーい」
相変わらずの先生の明るくハキハキとした口調に先程のざわつきとは打って変わって生徒も元気よく返事をする。
「先生、席決めとかないんですか~」
と、高校には1人はいるチャラチャラした福島(ふくじま)がぶっきらぼうに先生に聞く。
「好きな席に座っていいよ、皆落ち着くところがあるだろうから」
と言ってニコッと笑みを浮かべ去っていった。
クラス中からは
「このクラスで絶対良かったよね!」
「あの人女神かよ!」
と言った声で盛り上がる。
さて、さっさと帰ってやることやらなきゃ。と席を立とうとすると、
「ちょっと待った!鮫島樹君!」
と肩を押さえられ上から見下ろされる。吉原由梨に。
「やめてよ、帰りたいんだよ」
と睨みつけるが、肩から手を離してくれない。
「ねぇねぇ、君本当は陰キャじゃないでしょ。分かるよ私には」
「陰キャだよ、僕は。今まで友達なんかできた…ハッ!クシュン!」
「友達なんかできたこ…ハッ!クシュン!」
「ねぇ大丈夫?花粉症?」
「吉原さん、君猫好きって言ってたよね」
「うん!猫ちゃん大好き!可愛いよね!鮫島君も猫ちゃん好き?」
「学校来る前に猫触ってない?」
「触ったよ!通学路にめっちゃ可愛い猫ちゃんがいてね、思わず触っちゃった!抱きしめたりして制服毛だらけになっちゃったよアハハアハハ」
さっきからくしゃみが止まらない理由がわかった。
「吉原さん、僕は猫アレルギーなんだ、君が近くにいるとくしゃみが止まらない。これから僕に近づかないでくれ」
と言い残し教室を出た。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。