今日は学校も休みの日曜日だ。
あなたとしては久々にゆっくり過ごせるいい機会だなと思っていたのだが、十代は買い物に行くようで着々と外出の準備を進めている。
面倒くさく思われるのも嫌なので、あなたは引き留めることはせずその背中を見送ることにした。
大学で制作活動をしていると言っても、囚人環境の中作るのと一人で制作するのとではやっぱり集中の度合いが違う。たまには一人で制作するのもいいかと思って、あなたはパソコンのある部屋に向かった。パソコンを起動して昨日作った曲を聴く。
昨日作ったBメロはあの場ではうまくできたと思ったのに、改めて聴くと暗すぎてAメロとの繋がりが悪くいまいちだ。せっかく作ったがBメロの部分を削除して、白さが増した楽譜に向き直った。うんうん唸りながら作り直してスピーカーから流し、作り直してはスピーカーから流しを繰り返して、ようやく形になってきたところで、いつの間に帰ってきたのか、十代が声をかけてきた。
十代はすこし驚いたようだったが、すぐに気を持ち直して笑顔を浮かべ、「じゃ、また今度のお楽しみだな!」と言いつつ部屋を去っていった。
その後ろ姿を見ながら、思う。
十代くんにだけはこの曲、聴かれたくなかったな──と。
普段暗い曲を作るときは何となく暗い曲にしようと思って作り始めるものだが、今回は違う。明るい曲を作ろうとして暗い曲になってしまったのだ。しかもそれを制作中に気付けなかったということは、心が落ち込んでいたからに違いなかった。そんな曲を聴かれたことは心の底に溜まっていた汚泥を見られたことに等しい。
恥ずかしさと気まずさに内心で身を捩らせながら呪わしいこの曲をゴミ箱に放り込むと、あなたはリビングへと向かった。
リビングには十代がおり、買ってきたばかりの食材を冷蔵庫に詰めている。
あなた以外と恋愛をしたことがなく恋愛偏差値が低い十代らしいな、と思いつつあなたの声が落ち込むのは抑えられなかった。十代はいつものそっけないあなただと思っているのか、特に気にしていないようで、そのことにも落ち込んでしまう。
あなたはぎろりと冷えきった視線を十代に向けた。あなたの言葉に非難の色があるのを敏感に察したらしい十代がしどろもどろになりながら説明する。
あなたが激しく否定すると、十代は「なんだ、そっか」と言いながらからからと笑っている。
なんだかいつも以上に調子狂わされるな、と思いつつ、あなたは盛大なため息をついた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。