あなたは正面玄関を出たところで段差に躓いて転んだ。
膝にじんと痺れるような痛みが走る。擦りむいたらしい、というのは見ないでもわかった。
ぜえぜえと息を荒くしながら肘を支えに立ち上がる。
あなたは再び走ろうとした。しかし怪我をしたほうの膝に力が入らない。その間にもぐんぐん十代とあなたの距離は縮まっていく。
あなたは足を引きずりながら十代との距離を必死に稼ごうとした。しかし、その努力はすぐに無駄に終わった。
肩に手を置かれて、あなたは固まったように動けなくなってしまった。ヒュッと息を呑む。十代はそんなあなたにいつもの笑顔を向けた後、「ごめんな」と小さく呟いた。
優しいいつもの十代だった。
体の力が抜けてへなへなとその場に崩れ落ちたあなたに「大丈夫か⁈ なあ‼」なんて焦った声をあげるのは、紛れもなくいつもの十代だった。
結局、あなたは十代に幻想を抱いていたのだと思う。いつまでも子供のままだろうという想像はいつの間にかそうであってほしいという理想にすり替わり、そうに違いないという幻想にまで変わり果ててしまっていたのだ。その幻想が崩れたからといって、十代が十代でなかったことにはならない。
あなたは横抱きされて保健室に運ばれながら、十代の匂いを嗅いだ。
嗅ぎ慣れたあなたと同じ柔軟剤の匂いに隠れて、十代の汗の匂いがする。
二人きりの保健室であなたは語り始めた。
不安を、嫉妬を、挫折を。
語ることに対してもう苦い感情はなかった。
こんなに嫉妬して、独占欲に塗れて、泥臭くも愛してくれる十代になら、なにを言っても受け止めてくれると、わかっていたから──。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。