第6話

6*3B彼の朝ごはん(3)
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2022/03/29 15:00


男の同僚がいるブースへとやってくると、

皆がギョッとした様子で、私と自慢げに鼻を鳴らす男を交互に眺めた。

やはり貧乏くじを引いた彼が、女を口説けるかどうか賭けていたのだろう。
男子1
ここ座ってください!
僕の隣で!
言われるがままソファーのシートに腰掛ける。

ソファーブースは半円を描いている4人席のため、少し窮屈だ。

自然とお互いの距離が近くなるため、動けば男の肩に触れてしまう。


すでに0時を回っているというのに、彼らは元気に溢れている。

静かな店内で彼らの声だけが、異様なほどに大きく聞こえた。

あなた
(そういえば、あの男の子も声大きかったな)
と、風早大我という青年のことを思い出した。

金色の髪の彼は、私から見れば、純粋無垢な存在だ。

あれほど真っ直ぐに人を見つめることも、

あんなにストレートに自分の気持ちを告げることも、若さゆえの行動だろう。


あなた
ああいう子の朝ごはんってどんなのだろう?
男3
なになに?
朝ごはんですか?
つい口に出していた言葉に、男性陣の1人が反応した。

あなた
ええ、朝食って
みなさん何を召し上がってるのかなって?
話題を振るつもりは毛頭なかったのだが、仕方がない。

男たちが、口を開く。
男子1
僕は白米に納豆ですね!
納豆って発酵食品だから健康にいいですし!
男子2
俺は、朝は食べないんだよね。
しいて言えば、コーヒーかな
男3
立ち食い蕎麦行きますよ。
仕事前にさっと食べるのが定番で
男4
俺もコーヒーかな。
30代後半にもなってくると、色々気になるしね
あなた
(普通だなぁ……
まあ普通こんなものなんだよね)
男子1
あなたの下の名前さんは、どんな朝食なんですか?
あなた
私もコーヒーかな?
本当は、朝食ほどしっかり食べたい派なんです。

でも、発酵玄米に浅漬けと味噌汁なんて朝食摂ってるなんて話すと、

老人みたいだねって笑われるか、

美人を作るのも大変なんだね、なんて、

同情めいた感想で食の嗜好を一括りにまとめられるから、言いません。

男子2
あなたの下の名前さんも朝はコーヒー派ですか、
俺たち相性良さそうですね
あなた
ですね……
乾いた笑いを浮かべ、残り少なくなったグラスを傾ける。

一気にグイッと飲み干すと、腹の奥がかあっと熱くなった。

あなた
(あれ? ちゃんと混ぜてあるはずなのに)
思わぬアルコールの巡りに抗えず、ぼうっとなる頭を抱える。

その場を立ち上がると、貧血の時のように、血がざあっと足元へと降りていく。
あなた
それじゃあ、私はそろそろ……
と、今にもその場にしゃがみ込んでしまいそうになりながらも、

彼らの席から離れようとした。


男子2
もうちょっとだけ、いいよね?
傍からグッと強く腕を引かれ、再び席に引き戻された。

男の腕が私の肩を抱く。
一条 悠真イチジョウ ユウマ
お客様、そろそろラストオーダーのお時間となります
男子1
え、でもまだ12時ですよ?
一条 悠真イチジョウ ユウマ
申し訳ございません。
当店、平日はクローズ時間が早いものでして
あなた
すみません、
お手洗いまで、案内してもらっていいですか?
一条 悠真イチジョウ ユウマ
はい、かしこまりました
男子2
俺が手伝うよ
一条 悠真イチジョウ ユウマ
いえ、お客様の手を煩わせるわけには行きませんので、
ここはワタクシが
悠真の肩を貸してもらい、化粧室まで案内をしてもらう。

化粧室の扉が閉まると、悠真が、ほっとため息を吐いた。
一条 悠真イチジョウ ユウマ
びっくりした。
こんなメッセージ見た時は心臓止まったよ
と、ポケットの中から店のコースターを取り出した。

それは先ほど私が「HELP」と、メッセージを記したものだ。

あの男たちに薄らと感じた嫌な雰囲気に、念の為にと悠真へとサインを出して置いた。

あなた
気づいてくれてよかった
悠真は私の頬を掴み、目の奥を覗き込んだ。

その瞳は、心配げな色を帯びている。
一条 悠真イチジョウ ユウマ
何かされた?
あなた
ううん、平気
あなた
ただすごく、眠い……

一瞬、意識を落としかけて、慌てて彼の腕にしがみついた。
あなた
ごめんなさい……
一条 悠真イチジョウ ユウマ
あなたの下の名前ちゃん、ちょっとだけここで待てる?
私を抱き上げると、モザイクタイル張りの洗面所の上へと、そっと腰を下ろしてくれた。

悠真と同じ高さになったせいで、視線が合う。

何故か彼は怒っている気がした。

あなた
待て……ます
朦朧とした頭でそれだけ応えると、悠真は化粧室を出ていった。

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