第12話

12*わんこ男子の朝ごはん(5)
58
2022/04/04 15:00

熱いシャワーを浴び、身体にバスタオルを巻き付けてから、

再びキッチンを見やると、すでに風早の姿はなかった。
あなた
風早……さん?
不意に不安が込み上げ、彼の名を呼んだ。

すると、ガラス戸の先から、顔をひょっこりと出してこちらへと駆け寄ってくる。
風早 大我カゼハヤ タイガ
あなたの名字さん!って、エロっ!
あ、いや、その、朝ごはん、できたんで食べませんか?
あなた
今、エロって言った?
風早 大我カゼハヤ タイガ
言ってません!
きっと空耳ですね
茹蛸のように顔を真っ赤にさせる風早は、そそくさとベッドのある和室に入る。

正方形のちゃぶ台の上には土鍋と、味噌汁の入った鍋に、

目玉焼きの皿、豆苗のおひたしが並んでいる。
風早 大我カゼハヤ タイガ
質素で申し訳ないんですが……
と、お麩の浮かぶ味噌汁を差し出した。

赤味噌のいい香りがする。

土鍋を開けると、フワッと甘い湯気が上がる。

黄金色の玄米ご飯が現れたので、つい、
あなた
あ、玄米ご飯
と、声を弾ませてしまった。

しかし彼にはそう聞こえなかったようで、
風早 大我カゼハヤ タイガ
すみません! 
実家から送られてきたのが玄米で!
と謝られてしまった。

風早 大我カゼハヤ タイガ
で、でも無農薬ですし、
前日から水を吸わせたんで、だいぶ食べやすいかと
品評会のジャッジかと思うほどに彼は仰々しく私へと茶碗を差し出した。

茶碗には、彼の話通り、柔らかそうな玄米ご飯が盛られている。

あなた
ううん。
私も玄米食べるから
ちょっと驚いただけ
風早 大我カゼハヤ タイガ
え、そうなんですか!
よかった! ほら硬いのダメって人もいるので
あなた
私は、歯ごたえある玄米が好きかな
風早 大我カゼハヤ タイガ
あ、じゃあ今度はあなたの名字さんの
好みの炊き加減にしますね!
今度、というキーワードを彼は会話に盛り込んだけれど、

私と彼に今度などあるのだろうか?
あなた
(スルーしとこう)
あなた
いただきます
手を合わせて、お麩の浮かぶ味噌汁を啜る。

あなた
美味しい!
煮干しの出汁に赤味噌の濃厚さが丁度いい。

玄米ご飯も土鍋で炊いたからか、ふっくらと炊けていて、味噌汁との相性も最高だ。

薄らとついたお焦げの具合もなんとも絶妙。

これは一朝一夕では達することができない炊き加減とみた。

あなた
(金髪男子が、土鍋でご飯炊くなんて……
誰が予想しただろう?)
豆苗のおひたしは、シャキシャキとした豆苗の新鮮な歯触りに、出汁醤油と黒胡麻が加わり

きちんと一品料理としての主張をしてくる。

豆苗は窓辺で栽培していると思ったら、ちゃんと食卓に並べてくるあたり、

きちんと生活している感を知れて、どことなく親近感が湧いてしまった。

あなた
(一回使ったら、
ゴミ箱に捨てちゃいそうなのに……)
風早 大我カゼハヤ タイガ
目玉焼きは、ちょっと失敗して、焼きすぎちゃいました、
でも、鰹節とソースかけて食べるとなかなかです
そう照れ笑いを浮かべる風早は、失敗すら楽しんでいる気がする。
きっと何もなくても工夫してどうにか、生きようとする力が強いんだろう。

風早 大我カゼハヤ タイガ
……どうしました?
なんか、嫌いなものでも入ってました?
食べる手を止めてしまっていた私に、風早が心配げに問いかけた。
あなた
ううん、なんでもないよ。
こんな美味しい和食、久しぶりに食べたなって
風早 大我カゼハヤ タイガ
おかわりいっぱいあるんで、たくさん食べて下さいね!


少し早めの時間に、風早の家を出る。

流石に昨日と同じ服では、結衣に何を言われるかわからない。

風早がペラペラ喋るかも知れないけれど、

職場に波風は立てたくはないので、一度、家に帰ることにする。
風早 大我カゼハヤ タイガ
駅までで、いいんですか?
今日は、午後出勤なんで、家まで送りますよ?
あなた
(単に家バレしたくないんだけど)
送ってくれるというから、どんな手段かと思ったら、

意外と男らしい趣味を持っていたようだ。

1000CCはあるだろう大型バイクに腰を下ろし、ヘルメットを手渡された。

気筒から排気ガスが勢いよく噴き出される。

景色がどんどん後方へと流れてゆき、

消えてゆく景色と同じように置いていかれないように、彼の背中にしがみついた。

あっという間に駅につき、バイクから降りる。

なんだか名残惜しいな、なんて思っているのは、多分キスすらしてない関係のせいだ。


あなた
送ってくれて、ありがとう
風早 大我カゼハヤ タイガ
いえいえ、これぐらい、いつでもです
風早に背を向け駅へと向かう。


——けれど

振り返って、風早の元へと駆けた。


風早はヘルメットを被り、走り出そうとしているところだった。

私に気づいて、素早くキックスタンドを下ろす。

あなた
風早さん
彼の被るフルフェイスのヘルメットを両手で掴み、メット越しに彼へとキスをした。

ブラックカーボンの表面に、私のグロスがうっすらと移っている。


あなた
美味しい、朝ごはん、ご馳走様でした

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