家までの道中、この子と話をした。
あなたちゃんって言うらしい。
5歳って言っていた。
辰哉「5歳なんだね。」
『うん。』
辰哉「幼稚園か保育園には行ってたの?」
『ううん。ずうっと家にいたよ。』
辰哉「え?」
『ママが、お家から出させてくれないの。』
辰哉「そう、なんだ…。」
やっぱりなんかあるよね…。
この歳で幼稚園にも保育園にも行っていないなんて、別におかしくはないけど、違和感は感じる。
最近だったら、普通は幼稚園ぐらいには行かせると思ったんだけど…。
『お兄さん。』
辰哉「ん?」
『あの人たち、お友達?』
辰哉「…え?なんでいるの…。」
あなたちゃんの視線の先には、同期である阿部ちゃんと、シンメの照がいた。
亮平「ふっか…?」
照「…その子、誰…?」
二人には、ゆっくり話がしたくて、とりあえず俺の家まで来て貰った。
家に帰ると、母さんは目を丸くしてあなたちゃんのことを見ていた。
母「ちょっと!辰哉!?この子、どうしたの!?まさか…誘拐!?」
辰哉「ちょっ、落ち着いて!後でちゃんと話すから。」
母「…後でね。」
辰哉「おう。」
照「すみません、遅くに。」
母「まぁ、まぁ。ゆっくりしていって?」
亮平「ありがとうございます。」
辰哉「二人とも、部屋来て貰って良い?」
亮平「…うん。」
辰哉「あなたちゃんもおいで?」
『階段…?』
辰哉「怖い…?」
『コクリ』
辰哉「じゃ、ちょっとおいで。」
俺はあなたちゃんを呼んで、抱っこした。
思ってるよりもずっと軽くて、びっくりした。
『びゃあっ!』
あなたちゃんはいきなり自分が持ち上がったことにびっくりしたのか、大きな声を上げた。
…びゃあっ、って可愛いかよ!わら
辰哉「ごめん、ごめん。大丈夫だから、ね?」
『コクリ』
照「可愛い…。」
辰哉「だろ?」
亮平「なんで得意げなの?笑」
あなたちゃんのおかげか、二人との気まずい雰囲気も少しだけ良くなった。
亮平「…で、何があってこうなったの?」
辰哉「レッスン帰りに公園になんとなーく寄ったら、この子が泣いてたの。」
照「それで連れて帰ってきたの!?」
辰哉「いやいや、それだけじゃねぇよ!」
照「まぁ、なんとなく察しはつくけど…。」
辰哉「…このあざ見たら、嫌でも分かっちゃうよね…。」
亮平「この子は話してくれたの?」
辰哉「いや、まだ聴けてない。」
亮平「なんで…?」
辰哉「…この子、幼稚園にも保育園にも行ってないんだって。理由聞いたら、家から出させてもらえないんだって。」
亮平「…。」
辰哉「しかもさ、見たら分かると思うけど、夏服だよ?この寒い時期に。しかも、髪の毛はボサボサだし、服も所々破けてる。明らかにおかしいじゃん。」
照「…。」
亮平「嫌なこと思い出させちゃうかもしれないから、きけないよね…。ごめん。」
辰哉「阿部ちゃんが謝ることじゃないよ。」
照「で、この子どうするの?」
辰哉「出来ることなら、このまま俺が預かっておきたい。」
亮平「はぁ!?」
照「交番行ったら?」
辰哉「でも、交番なんて行ったら、この子がまた両親に苦しめられちゃうかもしれないよ?」
照「確かに…。」
亮平「ねぇ、この子の意見、聞いてみたらどう?」
照「どうしたいかってこと?」
亮平「うん。だって、この子の意見を一番に優先するべきじゃない?」
辰哉「確かに…。」
俺はそう言って、あなたちゃんの頭を撫でた。
さっき、少しだけ髪をとかしたから、一番最初に見たときより、髪がなめらかになっている。
『ん?』
辰哉「あなたちゃんは、これから、どうしたい?」
『私は…。』
辰哉「?」
『お兄さんと一緒が良い!』
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。