最初からいなかったかのように、頭巾男が消えた。
…私達を誘い込むための罠だったんだ。
ギィ、ギィ…
校内に入ると、天井から細長いものが垂れていた。
途中から太くなって、人のような形になっている。
近づいて見ると──それは、人間の死体だった。
目を大きく見開き、口から泡のようなものが出ている。
顔や唇は、真っ青。
これは、葵衣の死体だ。
時間になっても来なかった、葵衣の死体。
いつも笑顔の葵衣が、苦しそうな顔で見つめてきた。
そんな訳、ないのに。
葵衣…誰が…誰が葵衣を殺したの。
私の大切な親友を。
急に放送が流れた。
どこかで聞いたような、でも聞いていないような声。
とても明るい、男の子の声。
私達のことなどいざ知らず、楽しそうに話している。
愉快、そう言いたげな声。
…確かに、宝箱のような形をしている箱がある。
その中には、放送主が言った赤白のダリアのペンダントが入っていた。
それと、黒い巾着もだ。
全員が持ち、困惑した顔をする。
その子とは、葵衣のことか。
殺したのは、彼奴か…許さない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!