大戦が終わった
もう、夜は怖くない
これで、終わり
「...コンコン」
いつもは静かな蝶屋敷が、少し賑わっているように感じた
大戦から帰還した隊士達は決して無事と言える帰還ではなく、皆痛々しい傷を負った
その治療のため、多くの隊士が蝶屋敷にいた
しかし、
生き残れたこと
友の意志を紡いだこと
約束を果たしたこと
もう、怯えることはないということに例えることが出来ないほどの嬉しさで感涙した
明日を明後日を来週を、と
ただ生き続けるのではなく
明日昨日今日をただ暮らす
そんな平凡を取り戻した私たちは、同じ空間で同じ気持ちを共有しあっていた
私は毎日蝶屋敷に来ては、大使の皆さんに顔を出しています
ちょっとした近況報告や世間話
他愛もないことばかり話しています
少しでも皆さんの心が休まれば..と言う思いもありますが、それは建前で、本音を言うとただ私がおしゃべりしたいだけかもしれませんけども
やはり、このお部屋が1番賑やかです
彼らは階級や経験値としてはまだまだでも、それぞれが確実に成長した隊士の1人でしょう
胡蝶様がお空に行ってしまわれてから、この蝶屋敷の権利は、アオイさんやカナヲが継いだそうです
他の柱の皆様の御屋敷も、解体したり、身寄りのない子供たちのための施設に作り替えたり、また誰かが住んでくださるように保存しておいたり、と、本人のご意思通りに手配しています
また、皆様の遺品等はこちらで1度全て回収し、少しずつ御家族や大切な方へお渡ししています。こちらも、本人のご意思に従っております
・
・
・
あの後、私は冨岡様と不死川様の元へと向かった
柱で生き残ったのはたった2人
皆が苦しい時、柱として皆の光となり続けてくださいました
軽くご挨拶をした後、私は本題をお伝えしました
「御館様から、お2人をお連れするよう命を授かっています」
と、比較的落ち着いた声で伝えた
お2人は"ようやくか"とでも言うように頬を綻ばせながら頷いた
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ー本部・産屋敷邸ー
御館様は笑顔を絶やすことなく、"最後"と言う言葉を告げた
昨日の話し合いでは、まだこの柱合会議を最後にするのかは決まっていませんでした
しかし、御館様は迷って..たくさん迷って、この答えを自分で導き出した
簡潔に述べられた短文には、御館様の思いがたくさん隠されているように思えた
その言葉に、お2人は2文字の言葉で応えた
表情や雰囲気は変わらぬままですが、彼らの言葉は穏やかでした
額を畳に付け、込み上げる思いを押さえ込みながらお礼を申し上げた
安心しきったのか、3人の目からはボロボロと涙が零れ落ちた
兄様は、戦いが終わったら柱の方々に伝えて欲しいと私にお言葉を預けてくださった
皆、思いは同じなのです
しかし、その感情の表れ方は人それぞれ
今にもこぼれ落ちてしまいそうな涙を必死に涙腺に留める
幼子のように声を荒らげたい気持ちでいっぱいでも、成長を示すように声を押し殺す
溢れ出る涙の止め方なんて知らない彼女達は、必死になって気持ちの整理をつけている
みんな、同じ気持ちです
もちろん、私もです
ですが、私は泣きません
もちろん、込み上げる思いは嬉しさで、涙だって溢れそうです
でも、たとえ夜が守られても、私には守るものがたくさんあります
それに、託されたものだって
ですから、私はただ..
........................................................................................
「....パタン」
そう、これが
産屋敷家の剣士のお話
【終】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。