あなた、大学生。
ただいま、大ピンチです。
…事の発端は10分前。
大学のレポート提出で遅くなり、急いで帰っていた最中だった。
急に、全身黒ずくめの男の人が、声を掛けてきた。
急いでいたし、知らない人だったから、断った。
…でも、その人は諦めが悪くて。
そう言って、腕をグイッと引っ張ってくる男の人。
私は一か八かで男の人に体当たりして、全速力で逃げた。
…逃げ切れた、かな。
周りを見渡してもあの男の人はいなかった。
私はホッとして、少しその場所で立ち止まっていた。
すると…
気がつくと、私はさっきの男の人に腕を掴まれていた。
そう言って抵抗したが、離してくれる訳もなく。
…冒頭に至る。
怖い、嫌だ、誰か…誰か助けて!!
ギュッと目を瞑った、その時。
ふと、腕が楽になった。
目を開けてみると、さっきの男の人の腕を、別の男の人が掴んでいた。
そう言うと、男の人は逃げていった。
私は腰が抜けて、その場にペタンと座り込んだ。
男の人は、私が落ち着くまで傍にいてくれた。
…少しして、私に手を差し伸べてくれる男の人。
私はその手を遠慮がちに取った。
完全に男の人のペースに乗せられてる…
こういう性格が駄目なんだよなぁ…
男の人は私の手を取って歩みを進めていった。
───────喫茶店。
そう言うと、男の人───キヨさんは白い歯を見せてニカッと笑った。
…いい人だなぁ。
私は今までの経緯を事細かに説明した。
ここまでお世話になって、お礼しない訳にはいかないもんね!
爛々とした目でキヨさんを見つめる。
それから私たちは連絡先を交換した。
再び私の手を取るキヨさん。
キヨさんの手は、少し汗ばんでいて。
…男の人の手って、こんなにゴツゴツしてるんだな。
ちょっぴり胸を高鳴らせながら、私は足を進めていった。
───────あなた宅
…その日私は、何だかふわふわしたような気持ちで眠りについた。
この気持ちの答えを、私はまだ知らない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。