後ろから押しつぶすかのように吹く風。
目の前に広がる広い空。
身に感じたことのない浮遊感。
落ちている。
涙が目の前で遠ざかるのを見ながら、なす術なく力を抜く。
「やり直したい‥‥」
《確認しました。天地逆転獲得。》
誰?何を言っているの?
誰も私のことなんか気にしないだろうな。1人はもう嫌だ。
《確認しました。強制信者獲得。》
誰でもいいから傍にいてほしかった。
《確認。補獣魂作成。成功しました。》
こんな間際になって死ぬのが怖いなんて情けない。
あぁ、空が憎い。私をずっと嘲笑っているみたい。
《確認。天空支配獲得。成功。》
ん、てか長くね?
ビルから落ちたらこんなかかるものなの?
恐る恐る下を見た。
そこには自分のいた都会の景色は微塵もなく、細かな家が揃う全く知らない風景が広がっていた。周りは自然だらけ。
ちょうど真下に少し広めの町?国?
さっき感じた浮遊感はなく何か結界のような膜で囲まれているよう。
て、え。まって。なんでビルから落ちたはずなのに、ヘリから落ちたような光景になるわけ?
ヒィッ! こんな高さから落ちたらひとたまりもない‥!
いや、どっちにしろ死ぬなら変わんないか。
いや、こんな訳のわからず死ぬなんて嫌だ。誰か‥‥
て、無理だよな普通。
助けられるもんなら助けてるわな。
〝天地逆転を使用すれば死なずに済むだろう。〟
は、何。だれ?
〝私は貴方のスキル。補獣魂。〟
補獣犬?なにそれ。てか、死なずに済むって助かることできるの??
〝だが、被害は大きいだろう。〟
被害って?
〝下の国は滅ぶ。〟
は?
いやいやいや無理無理。使えない!
〝では死を選ぶか?〟
私の命なんて点描にかける価値もないわ。
〝死を選んだとしても、お前の周りのエネルギーでこの国はもう滅ぶだろう。〟
はぁ?なんだよそれ。意味わからん。
さっきから何でもかんでも言いやがって。あんたが言ってることが合ってる保証なんてないでしょ。
〝では試してみるがいい。我の推定は正しいと。〟
くっそ、ムカつくな。
もう何したって下の国は滅ぶわけ?
てか、私にそんな国滅ぼす力あるならこの状態をどうにか出来ないの?
〝今お前の体はまだ完成されていない。地上に出てこの世界のものと確認され、獲得したスキルが与えられる。〟
はぁ?さっき天地なんちゃらを使用すると助かるとか言ってたじゃない!
〝使用するのは地に着く瞬間だ。お前のエネルギーで周りに影響は出るが、天地逆転を使用すれば復元可能。〟
んん? 復元可能?何が?
てか、私のエネルギーが周りに影響するって私はなんともないの?
〝天地逆転を使用すればある程度は死なずにすむ。使用しなければ確実に死ぬだろう。〟
〝だがお前の持つ耐性である程度は回復すると思うが、何百年かかるか知らん。お前は死ねない。〟
さっきと言ってること違うじゃん!ちょっとふざけないでよ!
〝破壊された国もお前のスキルを使用すれば復元可能。1度は滅ぶということだ。〟
よく分からないやり取りをしているうちにもう地上は目の前。
「どうすればいいのよ!!」
〝天地逆転を使用するか?〟
「もうなんだっていいから助けて!」
〝了〟
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!