第153話

月花神楽・浅葱〈二幕〉
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2020/02/14 12:06
月花神楽・浅葱〈二幕〉

狐を助けてからしばらく経った
ある日、父親である王に呼ばれて
姫は久方ぶりに離れを出て本宅である
宮を訪れた

涼)お呼びでしょうか?
剣)よく来たな、我が姫よ。

上座にてどっしりと構える父親を
下座に置いて座し見上げる

剣)呼んだのは他でも無い、
其方に縁談の話があるのだ
涼)っ!縁談...お相手は?

問いかける声は震えていた

剣)豪商でもある貴族家の名家だ、
姫を嫁にやるに、申し分のない話だろう?

財力のある家に嫁に行くのも
王侯貴族の姫の役割でもあった
当然逆らえる筈もなく

離れに戻ると涙が溢れた...

涼)買えぬものがあったところで
1人では出来ぬことばかりか...
(心は売らないが、どうすることも出来ない)

姫は暗い心持ちで庭を眺めていた時だった
ひょこりと見覚えのある耳と尾が見えたのは

涼)あれは...
そこの茂みにいるのは猫か?犬かや?

衛)いいえ、ただの狐にございます。

声に応えるように狐が顔を出した

涼)元気になって良かった、こっちにおいで。

狐はコン!と鳴いて姫の側へとやってくる
頭をひと撫でしてやると気持ちよさそうに目を細めた

涼)其方の毛並みは美しい、そして温かい。

先程の悲しみが少し癒えた気がした

衛)あぁ、貴方様...天を覆う雲にお悩みか?
(貴方の顔を曇らせる悩みがお有りか?)
涼)..其方はまるで水鏡のような眼をしているのですね。
(その眼は鏡の様に私の心を見透かすのか)

姫は狐に縁談の話をした、
家にとっては良い話なのも
自分は婚姻したくないことも全て...

衛)貴方様に縁談...でも、したくないものを
無理にする事はありません。

その言葉に首を横に振る

涼)しなければ、積み重なった宝は泡となりましょう。
(私に掛けた財が無駄になる)

衛)でしたら、私がなんとかしましょう。
涼)其方が?
衛)はい、私にお任せ下さい!

そう言うと狐は姫が止める間も無く駆けて行くのだった

想いの花は咲き誇り、
やがて風となって散り急ぐのだーー

第二幕終わり

終幕へ続く

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