不意に頭上から聞こえてきた声に、愛璃は顔を上げた。するとそこには、影人がにこりともせずに立っていた。声をかけてきたのが影人だとわかった瞬間、愛璃は顔を背け、不機嫌そうな声で言った。
それを聞くと影人は、愛璃の顔をむんずと掴み、無理矢理視線を合わせて、こう言った。
愛璃は、顔は掴まれたままだが、目をそらす。
愛璃は、消えてしまいそうなほど小さな声で呟く。影人は、その言葉を聞くと、優しく微笑んだ。
愛璃は、そらした目を合わせる。影人のガラスのような瞳には、愛璃だけが映っていた。それを見て、まだ信じきれないところもあるけれど、とりあえず今は助けてもらおうと思った。
愛璃と影人は、作詞にとりかかった。影人の的確なアドバイスのおかげで、作詞はどんどん進んでいき、1時間経った頃には、曲名を考えるだけになった。
愛璃は、笑顔でお礼を言った。作詞を進めていくごとに、愛璃と影人の距離は縮まり、1時間前の様子が嘘だったかのように、2人は仲良くなっていた。
影人も、優しく笑い返す。愛璃は、歌詞の書かれた紙を見ながら、返した。
そこで、紙から影人へ目を移す。そして、一言一言を噛み締めるように、ゆっくりと告げた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。