映画の撮影初日を明日に控え、影人は、自分の部屋で台本とにらめっこしていた。演技をするのは初めてではないが、自分の演技を優や愛璃と比べると酷く見劣りしているように思え、少しも気が抜けない。
合同ライブのとき、影人は、愛璃への気持ちに気づいてしまった。自分でも、アイドル失格だと思う。けれど、そんなことを気にしちゃいられないほど、自分の、愛璃への気持ちがすでに大きくなっていることにも気づいていた。
あと1つ、影人には無視できないことがあった。それは──
ささやくように、しかし芯の通った声で影人は呟く。
影人は、優も愛璃に好意を寄せているのではないか、と考えている。愛璃によると、"デート"と名を称して、2人でよく出かけることがあるらしい。
愛璃は気づいていないようだが、そのときの優の言動には、ただの"友情"や"先輩・後輩"としての好意では説明できないものがある。
また、自分が2人の"デート"に、少なからずヤキモチをやいていることにも気づいていた。
そう呟くと、再び台本に目を落とした。が、その瞬間、スマホから通知の音が鳴った。
スマホを手に取り、LINEを開く。すると、優からメッセージが届いていた。
数秒画面を見つめたあと、影人は手早くメッセージを返した。
なぜ呼び出されたのかを少し不思議に思いながら、影人は台本を閉じ、着替え始めた。
──15時50分。影人は、待ち合わせ場所である駅前の喫茶店に着いた。店内を見渡すと、奥の方で、優らしき人が控えめに手招きしていた。
勧められた通り、影人は席につく。優と視線を合わせて話を促すまでもなく、優はさっそく話し始めた。
影人がそう話した瞬間、先程まで笑っていた優の目が急に真剣になる。それを見て、影人は思わず息を飲んだ。
優に言われた瞬間、影人は飲み物に伸ばしかけていた手を止めた。数秒どう返答しようか悩んだ後、影人はこう返した。
優は、少し目を開き驚いた後、淡々と告げた。
影人は、流れるように紡がれる優の言葉に、とてつもない重みを感じて、思わず目をそらしたくなった。だが、優はじっと影人の目を見つめ、そらさない。影人も不思議と、そらすことができずにいた。
そこまで言うと、優は席を立ち、座っている影人の背後に立った。そして、影人にだけ聞こえるような小さな声で、紡いだ。
影人は、優が去った後も、なかなか席を立てずにいた。なんとか立ち上がり、足早に家へ戻った後も、色々な思いが交錯し、その日は眠れない一夜を過ごすことになったのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。