優の顔を下から覗き込むようにしながら、愛璃が問いかける。
無邪気に笑う愛璃を見ながら、優は必死に緩みそうな顔に笑顔を貼り付けていた。愛璃にとってはただのお出かけでも、優にとっては"好きな子とのデート"なのだ。
そんな荒れ模様の優の心に気づくこともなく、愛璃は呑気にどこのお店に行こうか、などと考えていた。
(愛璃)う~ん、やっぱりタピオカかなぁ~。でも、ドーナツとかケーキも捨てがたいっ……
つまり愛璃は、自分に寄せられる好意に果てしなくうといのだ。
優も、それには薄々気づいていた。これまでにも何度か、自分の好意をほのめかすようなことはしてきたが、いっこうに気づく気配も、好意を寄せてくれる気配もない。
そんななか、"愛璃とEITOがとても仲がいい"なんて噂を聞いたため、今回の"デート"に踏み切ったのだ。
優は一瞬、"特別"という言葉に反応したが、すぐに気を取り直し、いつもの笑みを向けた。
心の中では、『ドーナツなんかより愛璃ちゃんが……』なんて思いながら。
──"デート"が始まって、数時間が経ち、そろそろ帰る時間になった。
優は、愛璃と一緒に事務所に戻り、そのまま別れようとした。
振り向き歩きだそうとした瞬間、愛璃が、優の腕を掴み、引き留めた。
愛璃を見ると、とても心配そうな顔をしている。
愛璃は、人から向けられる好意にはうといが、人の心の変化や異変には鋭かった。そのため、今日優と過ごしながら、愛璃はずっと、心の中で優のことを心配していたのだ。
その姿を見た優は、これ以上、自分の気持ちを偽ることができなかった。
事務所の奥の方から、笑い声が聞こえてきた。
愛璃は、急に止まった優のことを不思議に思い、首をかしげた。
優は数秒沈黙した後、いつもの笑顔でこう言った。
手を振りながら去っていく優の後ろ姿を見ながら、愛璃は思った。
(愛璃)あれっ?愛璃の気のせいだったのかな??
──一方、優は。
小声で呟きながら、自虐的な笑みをしていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。