(愛璃)えっ……EITO!?同じ学校、学年の芸能科だってことは中島さんから聞いてたけど、まさか同じクラスになるなんて……!
担任の先生が、EITOに問い掛ける。その声音には、ほんの少しではあったが、驚きや戸惑いが混じっていた。
EITOはそこで我に返ったようで、クラス中の視線を集めていることに気付くと、
小さな声で言い、静かにイスに腰を下ろした。
担任の先生は、また愛璃について話し始めた。
愛璃は、その声には耳を傾けず、EITOの方をうかがった。
愛璃と同じく、芸能科の制服に身を包んだEITOは、確かに昨日と変わらない容姿であったが、黒い眼鏡をかけていた。あと、これは愛璃の勘違いかもしれないが……
(愛璃)なんか……少し雰囲気が暗いような……
そう、ステージに立っているときや、他の人と話しているときとは違い、表情に影があるように見えた。
担任の先生の声で愛璃は1度思考を中断し、席に着いた。窓から暖かく日が差し込み、黒板からもほど遠く、とても満足のいく席だった。
そこで、HR終わりのチャイムが鳴った。
キーンコーンカーンコーン……───
鳴ると同時に、愛璃はクラスメイトに囲まれた。
待ってましたとばかりに質問攻めにされた愛璃だが、クラスメイトの質問に答えながら、こっそりEITOの方を見た。
(愛璃)本名、折下影人って言うんだ……
影人は、他のクラスメイトと、楽しそうに談笑していた。
(愛璃)あれ?やっぱり、さっき感じた暗そうな雰囲気、勘違いだったのかな……。
クラスメイトから尽きることなくぶつけられる質問に答えたり、初めての環境での授業を受けたりしているうちに、この日の昼は慌ただしく過ぎていった。
───そして、放課後。終業のチャイムが鳴るなり、それぞれの仕事に向かったクラスメイトのお陰で、愛璃はこの日初めての休息の時間を手にした。教室に残っているのは、愛璃と、まだ帰り仕度を終えていない影人だけだった。
(愛璃)こんなにゆっくり帰り支度してるってことは、EITOも今日はお仕事オフなのかな……まぁ、昨日ライブだったしな……。
このまま黙っているのも気まずいと思い、愛璃は、影人に話し掛けてみることにした。
そう言い、愛璃お得意のアイドルスマイルと共に手を差し出す。……が。
影人は、愛璃に目もくれず、そのまま帰り支度を終えると、足早に教室から去っていった。
ガラララ……ピシャッ
残ったのは、扉を閉める音の反響と、愛璃だけ。……もっと言うと、影人の態度に怒り狂った愛璃だけ、だった。
(愛璃)は?何でムシされるの??愛璃何もしてないよね!?っていうか、先に学校で反応したのそっちじゃん!!ライブのときとか優しかったし、同じクラスだからきっと仲良くなれると思ったのに~!
オレンジ色に染まった教室の中で1人、愛璃の声が教室中に響き渡った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。