相原ゆず。十六歳。本日、生まれて初めての告白をして──振られました。
たった今、告白されても眉ひとつ動かさずバッサリと切り捨てたこの男──一ノ瀬慧君は、私の抗議の言葉にも全く動じた様子を見せず、淡々と言葉をつむぐ。
鋭い瞳でズバリと指摘されて、思わず息をのんだ。
な、なるほど……でも何なんだろう、この人の冷静さ。
私は本気じゃないにしても、初めての告白にそれなりにドキドキしてたのに……やっぱりイケメンだから告白され慣れてるのかな?
サラサラの癖のない黒髪に、涼やかな目元が印象的な、整った顔立ち。
肩に鞄をかけ、何かの封筒を小脇に抱えた制服姿の長身は、すらりとして手足も長い。
遅刻・居眠りの常習犯で無愛想な慧君は、同じクラスの1─Aで一匹狼として過ごしているけど、そのルックスと独特の雰囲気から、密かに憧れている女子も少なくない。
あんまりしゃべらないけど、声もいいしね。そっけないのに、不思議と甘く響く低音。
……しまった、ハードルが高すぎたか。でも、「こいつならイケる」みたいな考えでアプローチするのもどうかと思うしなあ……。
うーん、と腕組みして眉を寄せる私だったけれど──
冷ややかにそう言われて、かあっと頰が熱くなった。
突然おばあちゃんの話を始めた私に、慧君がかすかに戸惑ったような表情を浮かべたけれど、構わず話し続ける。
思い出すと、じわっとまぶたが熱くなり、慌てて瞬きして誤魔化した。
以前のおばあちゃんなら、絶対に考えられなかった姿……。
ギュッと拳を握りながらせつせつと訴えたのに、慧君はあっさりそう言うと、去っていこうとする。
慧君が足を止めて、振り返った。
あれ、意外に乙女チックな単語に反応するんだな……と思いつつ、私は自分の鞄から筆箱を取り出し、更にそこから一本のシャーペンを取り出す。
瞬間、それまでポーカーフェイスを崩さなかった慧君が、ギョッとしたように大きく目を瞠った。
それは、月に二回発行される少女漫画雑誌『花とリボン』の応募者全員サービスで手に入れた、人気漫画『学園ハロウィン』の限定グッズだった。
テンション高くしゃべる私の前で、さっきまでサイボーグみたいだった慧君の顔が、かすかに赤くなっていた。
男子で少女漫画が好きなんてバレたら恥ずかしい、みたいな気持ちなのかな?
慧君はぶっきらぼうに全否定すると、くるりと背を向けて早足で離れていこうとする。あわわ、ここで逃したらもう次はないぞ。
しがみついて止めようとする私を引き離そうと、慧君がばっと腕を振り上げた。その拍子に彼が抱えていた封筒が地面に落ちて、バラバラと中身が散らばる。
慌てて拾い集めようとした紙の束は、漫画の原稿のようだった。
私がときどき遊びでノートに描くものとはレベルが違う、洗練された線で描かれた、息をのむほど綺麗な原稿。
しかも、その絵柄は『学園ハロウィン』そっくりで──。
震える人差し指を向けつつ呆然と尋ねると、慧君は、端整な顔をしかめながら、小さくため息を漏らした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。