無料スマホ夢小説ならプリ小説 byGMO

905
2018/08/06

第8話

二章
あんな生物兵器を(文字通り)食らわせて、帰らぬ人になってしまったらどうしよう……と心配していたけれど、幸い、柏木君は午後の授業が始まる頃には何事もなかったかのように戻ってきた。
放課後、いつも通り爽やかにテニス部に向かっていく彼の姿を見て、はー、よかった……と胸を撫で下ろしてから、私は中庭へと慧君を引っ張っていって、ヒロインプロジェクトの作戦会議をすることにした。
相原ゆず
相原ゆず
差し入れ作戦も失敗……次はどうしたらいいと思う?
一ノ瀬慧
一ノ瀬慧
いいか、相原
ジージーと余命わずかな蟬が全力で鳴き声を響かせる中、大きな木の影になった芝生の上で胡坐をかいた慧君は、しかめっ面で話し始める。
一ノ瀬慧
一ノ瀬慧
はっきり言うが、少女漫画はファンタジーだ。例えば少女漫画で人気のキャラ属性、『俺様』『ドS』『ツンデレ』……しかし現実で自分の周りにそういう奴らがいるところを想像してみろ。『俺様』はなんでも上から目線で人の話を聞かないただの自己中男、『ドS』は人が苦しんでいるところを見て喜びを感じるサイコパス、『ツンデレ』は何かあるたび突っかかってくる感じの悪い面倒くさい奴だ。どれだけ見目がいいとしても、おまえはそんな男たちと恋愛したいか?
相原ゆず
相原ゆず
……確かに、キャラとしてなら俺様もドSもツンデレも大好きだけど、実際に付き合うとなるとかなりストレスがたまるかも。漫画なら、根は優しかったり一途だったりすることがわかってるから萌えられるけど……
一ノ瀬慧
一ノ瀬慧
そうだろう? 他にも、『ヒロインがピンチになると必ず現れて助けてくれるヒーロー』。あのタイミングの良さは①仕込み ②ストーカー ③予知能力者のどれかじゃないと無理だろう。漫画だと定番でもよく考えるとツッコミどころ満載なんだ
相原ゆず
相原ゆず
ツッコミどころ……そういえば私も前から思ってたんだけど、よく告白シーンで描かれる『放課後の誰もいない教室で偶然二人きりになる』ってシチュエーション、まずないよね。そもそも『誰もいない教室』に遭遇するのが稀だし、そこに好きな人が残ってるってどんな奇跡かと
一ノ瀬慧
一ノ瀬慧
『全寮制男子校に女子が男装して潜り込む』というのも、身体検査があるから不可能だし、そもそも周囲の奴らの目がどれだけ節穴なんだって話だ。わかるだろ、体格とか声で! それともばれないくらいごつくて声が低いのか、そのヒロインは! そんなヒロインが逆ハーできるのか!?
相原ゆず
相原ゆず
非現実的と言えば、『やたらと権力を持った生徒会』もだね。中学入って、実際の生徒会活動のあまりの地味さに衝撃を受けたもん。あとはやっぱりあれ、『眼鏡をとったら美少女』! 美少女は眼鏡かけてても最初から美少女でしょ!
思わずヒートアップして『ここがヘンだよ、少女漫画!』大会に興じていたら、同じく拳を握って熱弁していた慧君が、ふうっと調子を整えるように吐息を漏らした。
一ノ瀬慧
一ノ瀬慧
──わかっただろう、相原? 漫画と現実は違う。リアルでは高校に入った途端空前のモテ期が到来することはないし、チャラ男が一途な男にモデルチェンジすることもない。ランチタイムに購買部で戦争が起こることもなければ、下駄箱を開けたらラブレターが雪崩みたいにでてきたりもしない。コーラでは酔わないし、いつも実験するたび爆発させる化学部員もいないし、屋上の扉はたいてい鍵がかかっていて一般生徒は立ち入り禁止。繰り返すが、少女漫画はファンタジーなんだ。だから……
冷徹な瞳で私を見つめながら、言い切る。
一ノ瀬慧
一ノ瀬慧
虚構世界のヒロインをいくら真似ても、無駄だ