……って慧君は言ってたけど、やっぱり諦めきれないんだよなあ……。
教壇に立って、穏やかな笑みを浮かべつつテキパキと司会をする柏木君の姿を眺めながら、本当に王子様みたいだなと惚れ惚れする。
こんな人となら、きっと少女漫画みたいな素敵な恋ができるよ。
~~~~なんてね! やーん、柏木君ってば大胆……!
妄想して一人で足をジタバタさせていたら、「相原さん」とすぐ近くから澄んだ声が聞こえて心臓が飛び上がった。
ハッと顔を上げると、柏木君の甘いマスクが私を見下ろしていた。
慌てて柏木君が持っている箱の穴に手を突っ込む。
黒板を見ると、席の番号とすでに引いた人の名前が書き込まれていた。
柏木君は、窓際の後ろから二番目という良席だ。
隣はまだ空席で、15と数字が書かれている。
15番15番15番15番……!
心の中で唱えながらクジを引き、開いた紙の中に書かれてた数字は──15。
きたーーー!
新しい席に着いて声を弾ませる私に、柏木君は清涼飲料のCMに出演できそうな爽やかさ抜群の笑顔で挨拶を返してくれた。一瞬だけ、隣に座った私の姿を見て頰がこわばった気がしたのは、目の錯覚だと思うことにしよう。
早速参考書を取り出して、自習を始める柏木君。
難しそうな問題にもつまずくことなく、ノートにスラスラと解答が埋まっていく。
窓から差し込む光がいい感じに彼の柔らかそうな髪やなめらかな頰を照らして、なんとも絵になる光景だった。
はあ、眼福……。
って見惚れてるばっかりじゃダメだよね。私もちゃんと勉強しなきゃ。うん。
とりあえず教科書の練習問題に取り組もうとしたけれど……二次関数……解の公式……共有点の座標……うっ、頭が!
必死で文字と数字を追おうとしても、段々視界がぼやけて、意識が遠くなってきた。
私にとって、数学は最高の睡眠導入剤だ。おやすみなさい…………。
肩を軽く揺さぶられて、目を覚ます。
顔を上げると、はちみつレモン王子のご尊顔がそこに。
ハッ、私ってば、よだれが! ギャー、恥ずかしい。
頰が熱くなるのを感じながら口元をぬぐっていたら、ぷっと柏木君が小さく噴き出した。
え、まさか教えてくれるの!?
ドキドキしながら教科書を指さすと、柏木君は二秒ほど視線を落としてから、「ここに書いていい?」とノートを引き寄せた。
私ではまったく太刀打ちできなかった難問を、わかりやすく解説しながら鮮やかに解いていく柏木君。
感嘆のため息とともに手を打った私に、柏木君は優しく微笑んで、立ち上がる。
鞄とラケットを携えた柏木君は、ひらひらと手を振ると、教室から去っていった。
やっぱり柏木君、素敵だな。ビバ! はちみつレモン王子。ビバ! 隣の席。
夢のスクールライフが今日からスタートだね……!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。