私は静かにその名を口にした。
すると、緋山さんは不敵な笑みを浮かべた。
緋山さんはいつものような紳士的な瞳から悪魔のような形相で顔を歪ませた。
そう言うと緋山さんは刀を抜く。
いつの間にか、後ろに香純さんがいた。
香純さんは笑みを浮かべながら私の前に庇うようにして現れた。
私は香純さんに腕をつかまれて、外へ続く階段を駆け下りた。
私達は外に出ると、香純さんは懐から短刀を取り出し、口で袋を剥ぎ取った。
私もさっと小太刀を取り出す。
数秒すると中から雨宮圭が出てきて足を止める。
深夜2時過ぎ。
島原の店はどこも閉まっていて華やかさを無くしていた、人通りの少ない時間帯。
私は彼を睨んでいると、向こうの方から黄蘗色の見覚えのある羽織が見えてきた。
なるほど、だから外に連れ出したんだ。
彼の悪事をばらすために...
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《月宮寺》
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叫んだ瞬間、雨宮圭はしまに向かって刀を奮った。
ハルくんが雨宮圭を止めようと抑えにかかったときー。
雨宮圭はその腕を振りほどこうとハルくんを投げ飛ばした。
雨宮圭はひたすら剣をしまに向かって突き刺し、しまはそれを必死で避けていた。
なんにせよ、月宮で1番の腕前があると言われていた剣士のうえ、避けることも精一杯だ。
私は叫んだ。隊士たちは驚いたように目を見開いた。
東堂さんは刀を抜く。
刀を大きく振りかぶって雨宮圭に斬り掛かる。
しかし、先程のハルくん同様物凄い突風と力で突き飛ばされた。
浬さんは私と香純さんを背中に回し、刀に手をかける。
すると背後から香純さんが浬さんの耳元で囁いた。
浬さんは一瞬驚いた顔をしたものの、ため息をついてから口を開いた。
そう静かに話すとしまの方に掛けて行った。
すると遅れて白夜さん、十五郎さん、凛太朗、九十九さんがやってきた。
白夜さんは東堂さんの腕を肩に回し立たせた。
つい癖で『様』を付けてしまったことに浬は口を塞ぐ。
その瞬間、雨宮圭はわたしに向かってもの凄いスピードで走り迫ってきた。
しまは危険を察知して暁ノ刃を抜刀しながら雨宮圭に斬りかかろうとしたとき。
雨宮圭はしまの目の前に私を盾のようにして前に出した。
目をそっと開けると、私の喉元に暁ノ刃の刃先がギリギリで止まっていた。
雨宮圭は手で私の首を掴んだ。
浬さんとしまは仕方なく1歩、2歩と後ろに下がった。
と、その瞬間―。
突然浬さんの背後に何者かが迫り、斬り掛かる。
しかしそれを凛太朗が庇うように倒れた。
凛太朗の肩から血が溢れ、服に染み渡る。
東堂さんは雨宮順平に向かって斬り掛かる。
雨宮順平はそれを刀でとめる。
雨宮順平は1人で来たのではなかった。
彼は数十名の部下の浪士たちを引き連れてきた。
九十九さんや染川さん、十五郎さん、白夜さん、そして、少し傷を負いながらもハルくんの幹部達がその浪士たちと戦い始めた。
浬さんは凛太朗の腕を肩に回し遠くへ離れようとする。
しかし、浬さんの命をも狙う雨宮順平はその後ろ姿に斬り掛かろうと走り出す。
それを東堂さんは食い止めた。
一方しまは暁ノ刃を抜刀して時間が経つにつれて苦しそうに緋山を睨んでいた。
荒い息と嫌な咳を吐き続けるしま。
このままだと、しまの命が危ない...!
首を締められる中、朦朧とする目を開け辺りを見渡す。
(あれ、香純さんどこに行ったんだろう?)
彼女の姿がいつの間にか消えていた。
こんな時に...どこに消えたの...
助けて...
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。