第21話

「偽善者」
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2018/10/21 11:09
私は静かにその名を口にした。

すると、緋山さんは不敵な笑みを浮かべた。
雨宮圭
雨宮圭
...ご明察。よく気づきましたね。そんなに兄さんに似てましたか...。
諸星 明日香
諸星 明日香
...ということは、雨宮順平が貴方の兄なんですね...目的はなんですか。
雨宮圭
雨宮圭
島津裕道の所持する暁ノ刃を奪い、そして、彼と貴女を殺すことですよ。
緋山さんはいつものような紳士的な瞳から悪魔のような形相で顔を歪ませた。
諸星 明日香
諸星 明日香
なぜ私たちを殺す必要があるんです!
雨宮圭
雨宮圭
まだ分からないんですか?私が月宮団に入隊したこと。浬さんを拾ったこと。島津裕道のことを「ひろくん」と呼び慣れ親しむこと。貴方に3度登楼したこと。そして、3ヶ月共に暮らしてきたこと...。すべてはこの日のために…貴方達に復讐ふくしゅうするために私は月宮にいたんですよ。
諸星 明日香
諸星 明日香
(復讐…?)…なるほど、私たちがここを離れると言っていた3ヶ月、それほどの時間共に暮らせば、互いに信頼関係も築くことができ、私としまが貴方に目を光らせる必要性も必然的になくなる...そう踏んだんですね。
雨宮圭
雨宮圭
その通り。今宵、貴女に床入りを申し立て、殺そうと企てていたのも事実。しかし、まさかこのタイミングで気づかれてしまえば待つこともない...
そう言うと緋山さんは刀を抜く。
雨宮圭
雨宮圭
ーここで殺すと致しましょう。
楼 香純
楼 香純
-なるほどなぁ。
諸星 明日香
諸星 明日香
っ!?香純さ...!
いつの間にか、後ろに香純さんがいた。
香純さんは笑みを浮かべながら私の前に庇うようにして現れた。
楼 香純
楼 香純
狐面男こと雨宮順平が麻蔵で暴れまわってくれはったあのとき、こっそり隊を離れて仲間に指示を出していたのは、あんさんやったっちゅうわけやな。
雨宮圭
雨宮圭
...これはこれは、香純花魁。お目にかかれて光栄です。ご存知だということは、あの暗闇で華の花魁様はどこにいらっしゃったのか知りたいところですが、それはさておき、私の正体を知ってしまったばかりは御二方とも始末する必要があるようだ...。
楼 香純
楼 香純
明日香、外へ出るわよ。
諸星 明日香
諸星 明日香
ふぇっ?
私は香純さんに腕をつかまれて、外へ続く階段を駆け下りた。
雨宮圭
雨宮圭
チッ...逃がすか!
私達は外に出ると、香純さんは懐から短刀を取り出し、口で袋を剥ぎ取った。
私もさっと小太刀を取り出す。
数秒すると中から雨宮圭が出てきて足を止める。

深夜2時過ぎ。
島原の店はどこも閉まっていて華やかさを無くしていた、人通りの少ない時間帯。
私は彼を睨んでいると、向こうの方から黄蘗きはだ色の見覚えのある羽織が見えてきた。
諸星 明日香
諸星 明日香
月宮団っ...!
雨宮圭
雨宮圭
何!?
楼 香純
楼 香純
フフっ。残念。予想外だったようね。最近、不逞浪士の辻斬りが流行っているこの街のこの時間帯は、月宮団が見廻りに来ている。
なるほど、だから外に連れ出したんだ。
彼の悪事をばらすために...
東堂 勝利
東堂 勝利
っ!?あれは...!
染川 葵
染川 葵
島原の芸妓じゃねぇか?
金城 春正
金城 春正
全員刀を持ってやがる...!
浬
...あれは、緋山ではないか。
染川 葵
染川 葵
た、確かに、それっぽいが...
東堂 勝利
東堂 勝利
行くぞ。
島津 裕道
島津 裕道
明日香だ!明日香もいます!
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《月宮寺》
榊 出雲
榊 出雲
十五郎さん!伝令です!
鷲十五郎
出雲か、何かあったのか?
榊 出雲
榊 出雲
それが、島原の通りで緋山さんと明日香と麻蔵の花魁が刀を抜いていてっ...今にも斬り合いが始まりそうな状況なんです!
鷲十五郎
それは誠か!?わかった、今すぐ私と幹部を向かわす。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
...十五郎さん?
九十九 京助
九十九 京助
何かありましたか。
白夜 和丸
白夜 和丸
どうせ例の辻斬りだろ?だったら東堂さんたちが...
鷲十五郎
圭と明日香ちゃんが抜刀しているようだ。何があったのかはわからない。我々も向かおう。
金城 春正
金城 春正
明日香と緋山さんが?!
白夜 和丸
白夜 和丸
おいおい、何してんだこんな夜中に...!
九十九 京助
九十九 京助
団長、謹慎中の身ですがよろしいのでしょうか...いえ、自分も同行の許可をお願いします...
鷲十五郎
当たり前だろう、今は君の力が必要だ。こちらから願い申す。
九十九 京助
九十九 京助
っ...ありがとうございますっ...!
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
島津 裕道
島津 裕道
緋山さぁぁん!
諸星 明日香
諸星 明日香
危ない!!!!
叫んだ瞬間、雨宮圭はしまに向かって刀を奮った。
島津 裕道
島津 裕道
くっ...!どうしちまったんだよ緋山さん!!
雨宮圭
雨宮圭
私の名前は緋山圭ではありません!
島津 裕道
島津 裕道
何っ!?
東堂 勝利
東堂 勝利
やめろ圭!落ち着け!そいつは俺らの仲間だろう!お前は仲間を斬るような奴じゃねぇだろう!
金城 春正
金城 春正
おい、よせって緋山さんっ!
ハルくんが雨宮圭を止めようと抑えにかかったときー。
金城 春正
金城 春正
うわぁぁぁっっ!
雨宮圭はその腕を振りほどこうとハルくんを投げ飛ばした。
染川 葵
染川 葵
ハル!!!!っ...緋山さん!!あんた、本当にどうしちまったんだよ!?
雨宮圭
雨宮圭
...もう物腰の柔らかい親切な月宮の緋山圭はいません。
雨宮圭はひたすら剣をしまに向かって突き刺し、しまはそれを必死で避けていた。
なんにせよ、月宮で1番の腕前があると言われていた剣士のうえ、避けることも精一杯だ。
島津 裕道
島津 裕道
だからっ!意味がわかんねぇって!
諸星 明日香
諸星 明日香
彼は雨宮順平の双子の弟や!
私は叫んだ。隊士たちは驚いたように目を見開いた。
染川 葵
染川 葵
嘘...だろ...
雨宮圭
雨宮圭
...雨宮圭...これが私の名前です。
島津 裕道
島津 裕道
っ...てめぇぇ!!俺たちを騙してたのか!
雨宮圭
雨宮圭
騙すも何も、気づかない方が悪いんでしょう?
東堂 勝利
東堂 勝利
圭っ...止むを得ん。
東堂さんは刀を抜く。
東堂 勝利
東堂 勝利
どりゃぁぁぁぁぁ!!!!
刀を大きく振りかぶって雨宮圭に斬り掛かる。
しかし、先程のハルくん同様物凄い突風と力で突き飛ばされた。
島津 裕道
島津 裕道
東堂さぁんっ!!!
浬
お前達は下がってろ。
浬さんは私と香純さんを背中に回し、刀に手をかける。
すると背後から香純さんが浬さんの耳元で囁いた。
楼 香純
楼 香純
私は貴女の正体を知っている。貴女でも彼が烏丸に関わっていることを知らなかったの?
浬さんは一瞬驚いた顔をしたものの、ため息をついてから口を開いた。
浬
あぁ。本当のことを話すと、私を拾ってくれたという恩から信頼感が厚かった。この人なら裏切らないとな。しかし奴はそれを利用した。...許せない。
そう静かに話すとしまの方に掛けて行った。
浬
金城や東堂を頼んだ!
諸星 明日香
諸星 明日香
はっ、はい!
すると遅れて白夜さん、十五郎さん、凛太朗、九十九さんがやってきた。
鷲十五郎
圭!
白夜 和丸
白夜 和丸
おい、立てるか東堂さん!
東堂 勝利
東堂 勝利
あ、あぁ。すまねぇ。
白夜さんは東堂さんの腕を肩に回し立たせた。
白夜 和丸
白夜 和丸
一体何事なんだ。
東堂 勝利
東堂 勝利
...圭は、雨宮順平の双子の弟だ。
鷲十五郎
な...!
白夜 和丸
白夜 和丸
なんだと!?
東堂 勝利
東堂 勝利
はやく止めねぇと何をやらかすかわかんねぇ。
諸星 明日香
諸星 明日香
東堂さん、額から血が...!
東堂 勝利
東堂 勝利
こんなもん平気だ。それよりハルの方が傷を負っている。手当を頼んだ。
諸星 明日香
諸星 明日香
は、はいっ...。
浬
はぁっ!!
島津 裕道
島津 裕道
やぁぁぁっ!
雨宮圭
雨宮圭
私の苗字は雨宮じゃないと言ったらどうします?
浬
何が言いたい?
雨宮圭
雨宮圭
雨瀬...この苗字に聞き覚えはあるでしょう?
島津 裕道
島津 裕道
雨瀬っ!?
浬
まさか、章嗣あきつぐ様のっ...
つい癖で『様』を付けてしまったことに浬は口を塞ぐ。
雨宮圭
雨宮圭
フッ、やはり、父に仕えていた娘だ。
浬
クソっ。お前は実の息子か。
島津 裕道
島津 裕道
なるほど...数年前、俺の親父が暗殺した尊攘志士のかしらがお前の父の雨瀬章嗣だったってわけか。そんでお前の兄は月宮の宮をとって雨宮と名乗り、俺らに近ずいた。しかしお前は兄の作戦として烏丸革命隊から離脱し、雨と対照的な火、緋山と仮名して月宮に潜入という形で入隊、ってとこか。
浬
それで?その妬みの鬱憤晴うっぷんはらしに真の暁ノ刃だけでなく、島津の命までも狙うんだな。全く欲深な男だ。
雨宮圭
雨宮圭
いや、狙っているのは島津裕道だけではありません。
その瞬間、雨宮圭はわたし明日香に向かってもの凄いスピードで走り迫ってきた。
諸星 明日香
諸星 明日香
!?
島津 裕道
島津 裕道
明日香!!
しまは危険を察知して暁ノ刃を抜刀しながら雨宮圭に斬りかかろうとしたとき。
諸星 明日香
諸星 明日香
きゃっ!!
雨宮圭はしまの目の前に私を盾のようにして前に出した。
覚醒した裕道
覚醒した裕道
っ!?
目をそっと開けると、私の喉元に暁ノ刃の刃先がギリギリで止まっていた。
雨宮圭
雨宮圭
フッ。やはりお前の弱みはこの娘ですか…。そして、この女が絡むと必ずその姿に変化へんげする。本当に面白い。
諸星 明日香
諸星 明日香
っく…苦しいっ…!
雨宮圭は手で私の首を掴んだ。
覚醒した裕道
覚醒した裕道
離せ………今すぐ、明日香から離れろ!!雨瀬圭!!
雨宮圭
雨宮圭
そんな簡単に手放すわけにはいきません!貴方と関わったやつ全員斬り殺す!この娘が殺されたくなかったら近寄るな!
浬
くっ...!
浬さんとしまは仕方なく1歩、2歩と後ろに下がった。


と、その瞬間―。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
浬さん!!!!!!!!
浬
!?
突然浬さんの背後に何者かが迫り、斬り掛かる。
しかしそれを凛太朗が庇うように倒れた。
浬
松浦!!
雨宮順平
雨宮順平
チッ。邪魔が入りましたか...。
浬
お前はっ...雨宮順平!!
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
っ...だ、大丈夫か?浬さん...あんたを死なせて溜まるかよ...
凛太朗の肩から血が溢れ、服に染み渡る。
白夜 和丸
白夜 和丸
凛太朗!しっかりしろ!
東堂 勝利
東堂 勝利
おりゃぁぁぁっ!
東堂さんは雨宮順平に向かって斬り掛かる。
雨宮順平はそれを刀でとめる。
雨宮圭
雨宮圭
遅いよ兄さん。
雨宮順平は1人で来たのではなかった。
彼は数十名の部下の浪士たちを引き連れてきた。
九十九さんや染川さん、十五郎さん、白夜さん、そして、少し傷を負いながらもハルくんの幹部達がその浪士たちと戦い始めた。
白夜 和丸
白夜 和丸
おらぁぁっ!
染川 葵
染川 葵
だぁぁっっ!
東堂 勝利
東堂 勝利
お前の相手は―、この俺だ!はぁぁっっ!
雨宮順平
雨宮順平
やぁぁっっ!
東堂 勝利
東堂 勝利
浬!凛太朗を頼む!
浬
承知した。
浬さんは凛太朗の腕を肩に回し遠くへ離れようとする。
しかし、浬さんの命をも狙う雨宮順平はその後ろ姿に斬り掛かろうと走り出す。
それを東堂さんは食い止めた。
東堂 勝利
東堂 勝利
この先は行かさねぇよ...!
雨宮順平
雨宮順平
どけえぇぇぇっ!
一方しまは暁ノ刃を抜刀して時間が経つにつれて苦しそうに緋山を睨んでいた。
諸星 明日香
諸星 明日香
しまぁっ...に、げて...
覚醒した裕道
覚醒した裕道
はぁっ!はぁっ...!ゲホゲホ
荒い息と嫌な咳を吐き続けるしま。

このままだと、しまの命が危ない...!
雨宮圭
雨宮圭
おやおや、もう体力切れですか。愚かなものですね。このままお前の命が灰の如く散り行くのを見届けてやりましょう。
覚醒した裕道
覚醒した裕道
はぁ...さ...せるかよ...!
諸星 明日香
諸星 明日香
鞘に...しまって...は、...やく!
首を締められる中、朦朧もうろうとする目を開け辺りを見渡す。

(あれ、香純さんどこに行ったんだろう?)
彼女の姿がいつの間にか消えていた。
こんな時に...どこに消えたの...





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