私たちが京都にきて早くも3週間が経った。
この街や麻蔵遊郭の仕組みもそろそろ慣れ親しんだ今日この頃。
私はいつものように芸妓の仕事を終えて帰り道を歩いていた。
初めは怖いと思っていたこの道も、案外事件は起きず、平気に歩けるようになっていた。
(まだちょっぴり怖いけど)
すると、向かいからぞろぞろと集団が歩いてこちらにきた。
先頭には、月宮団の東堂勝利さんと緋山圭さん。その後ろに数人の武士たちがいた。
私に気付いた2人は、後ろを歩いていた武士達に先に行くように指示をだし、わたしのもとへきた。
いつものように優しく爽やかな笑顔をみせる緋山さん。
二人と別れを告げようとしたときだった。
私たちの頭上で何かが過ぎった。
すると遠くで、「くノ一だーー!」と男性が叫ぶ声が聞こえた。
いつもの優しそうな表情とうってかわって真剣な表情になる緋山さんに少し驚きつつ、私は緋山さんの指示に従って急いで屯所(月宮寺)に帰った。
角を曲がろうとしたとき、通りすがりの家の外に刀が立てかけてあるのに気づいた。
私はふとしまの言葉を思い出した、
『-こんなときに使わねぇなんて、ただの飾りじゃねぇか。-』
私は誰のものかも分からずにその刀を片手に西門方面へ走り出す。
しかし、いつまで走っても西門は見えない。
これは...間違いなく...
迷ってしまった。
私は刀をぎゅっと握りしめて辺りを見渡す。
するとその時-
後ろから手を回され口を塞がれた。
突然の事で頭が真っ白になる。
ひたすら足と刀をふる。
すると後ろから、「明日香。」とどこかで聞き覚えのある声がした。
私がばたつくのをやめると口を塞いでいた手が離れた。
後ろをそっと振り向く。
するとそこには-
その顔は確かに香純さんだった。
でも、その服装や髪型は、私が知っている香純さんではなかった。
髪を高めに結んで、黒と赤の忍びのような服装...
言われるがままに香純さんについていくと、あっという間に賑やかな島原の通りにでた。
そして颯爽と麻蔵遊郭の裏口に入り、香純さんの部屋へとあがった。
部屋に入ると香純さんはいつもの着物に着替えて床に座る。
どうしようどうしよう。
私、きっと知ってはいけないこと知ってしまったんだ…。
近いうちに殺されるのかも…。
香純さんに聞きたいことがありすぎて戸惑っていると、香純さんから口を開いた。
あの人らは私も実際絡まれたことがある。
静かにそう聞くと、香純さんはそっと笑った。
そういって私は右の掌を香純さんに見せる。香純さんはクスクスと笑った。
…本当に、この人は謎が多すぎる。
私は床に置いていた刀を手にとって見せた。
すると香純さんはびっくりした顔で「あら?」と刀を受けとる。
そうして私はその日、遊郭に泊まった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!