第5話

「古の怪盗淑女」
164
2018/11/06 11:27
私たちが京都にきて早くも3週間が経った。

この街や麻蔵遊郭の仕組みもそろそろ慣れ親しんだ今日この頃。
私はいつものように芸妓の仕事を終えて帰り道を歩いていた。
初めは怖いと思っていたこの道も、案外事件は起きず、平気に歩けるようになっていた。
(まだちょっぴり怖いけど)
すると、向かいからぞろぞろと集団が歩いてこちらにきた。
先頭には、月宮団の東堂勝利さんと緋山圭さん。その後ろに数人の武士たちがいた。
私に気付いた2人は、後ろを歩いていた武士達に先に行くように指示をだし、わたしのもとへきた。
緋山 圭
緋山 圭
こんばんは明日香さん。お仕事帰りですか?
諸星 明日香
諸星 明日香
はい。お二人は巡察ですか?
緋山 圭
緋山 圭
はい。最近ここら辺でくノ一がでると噂で聞きまして、普段のルートと変更してここを歩いていました。
諸星 明日香
諸星 明日香
くノ一...?忍びですか...物騒で怖いですね。お二人もお気を付けください。
緋山 圭
緋山 圭
ありがとうございます。明日香さんこそ、特にこの時間帯は気をつけてお帰りくださいね。
いつものように優しく爽やかな笑顔をみせる緋山さん。
東堂 勝利
東堂 勝利
行くぞ圭。
緋山 圭
緋山 圭
はいはい分かりましたよ。...それでは失礼します。
諸星 明日香
諸星 明日香
あ、はい。
二人と別れを告げようとしたときだった。

私たちの頭上で何かが過ぎった。
東堂 勝利
東堂 勝利
何だ。
緋山 圭
緋山 圭
わかりません。しかし、例の者かと。
すると遠くで、「くノ一だーー!」と男性が叫ぶ声が聞こえた。
諸星 明日香
諸星 明日香
えぇっ!!?
緋山 圭
緋山 圭
東堂さん!
東堂 勝利
東堂 勝利
やつは三丁目を右に曲がりやがった。圭は後衛を何人か連れて裏に廻れ!西門方面だ!
緋山 圭
緋山 圭
分かりました。...明日香さん、ここは危険です。速やかに屯所にお帰りください。
諸星 明日香
諸星 明日香
わっ、わかりました!
いつもの優しそうな表情とうってかわって真剣な表情になる緋山さんに少し驚きつつ、私は緋山さんの指示に従って急いで屯所(月宮寺)に帰った。
諸星 明日香
諸星 明日香
はぁっ...はぁっ...
角を曲がろうとしたとき、通りすがりの家の外に刀が立てかけてあるのに気づいた。
私はふとしまの言葉を思い出した、
『-こんなときに使わねぇなんて、ただの飾りじゃねぇか。-』
諸星 明日香
諸星 明日香
...あとで返すからっ
私は誰のものかも分からずにその刀を片手に西門方面へ走り出す。
しかし、いつまで走っても西門は見えない。
これは...間違いなく...
諸星 明日香
諸星 明日香
ここ...どこやねん
迷ってしまった。
私は刀をぎゅっと握りしめて辺りを見渡す。
するとその時-
諸星 明日香
諸星 明日香
っ-!?
後ろから手を回され口を塞がれた。
突然の事で頭が真っ白になる。
諸星 明日香
諸星 明日香
っ〜〜!
ひたすら足と刀をふる。
すると後ろから、「明日香。」とどこかで聞き覚えのある声がした。
私がばたつくのをやめると口を塞いでいた手が離れた。
後ろをそっと振り向く。
するとそこには-






楼 香純
楼 香純
驚かしてしまってごめんなさいね。
諸星 明日香
諸星 明日香
かっ...香純さん...っ!?!?
楼 香純
楼 香純
今色々事情があって追われてるのよ。
その顔は確かに香純さんだった。
でも、その服装や髪型は、私が知っている香純さんではなかった。
髪を高めに結んで、黒と赤の忍びのような服装...
諸星 明日香
諸星 明日香
...も、もしかして、さっき四条通りで騒がれていた噂のくノ一って、香純さんですか?!
楼 香純
楼 香純
-えぇ。そうよ。驚いた?
諸星 明日香
諸星 明日香
そそそ、そりゃあ驚きますよ!何でこんなことやってはるんですか!?
楼 香純
楼 香純
それはあとでゆっくりと話してあげる。あなた、私を追って迷子になったんでしょう?ついてきなさい。
諸星 明日香
諸星 明日香
えっ?
言われるがままに香純さんについていくと、あっという間に賑やかな島原の通りにでた。
そして颯爽と麻蔵遊郭の裏口に入り、香純さんの部屋へとあがった。
部屋に入ると香純さんはいつもの着物に着替えて床に座る。
どうしようどうしよう。
私、きっと知ってはいけないこと知ってしまったんだ…。
近いうちに殺されるのかも…。
香純さんに聞きたいことがありすぎて戸惑っていると、香純さんから口を開いた。
楼 香純
楼 香純
明日香、烏丸革命隊って知ってるかしら?
諸星 明日香
諸星 明日香
あ、はい。知ってます。
あの人らは私も実際絡まれたことがある。
楼 香純
楼 香純
その烏丸革命隊が、この京にやってきて騒ぎを起こすようになったのはほんと最近のことなの。…ちょうど明日香たちが京にきて一週間ほどたった頃かしらね。
諸星 明日香
諸星 明日香
そうなんですか…?
楼 香純
楼 香純
えぇ。やつらが何でここに来るようになったのかは全くわからん。そんなやつらの悪事を探るために私はくノ一になっている。
諸星 明日香
諸星 明日香
で、でも、あんな人ら月宮団の人たちに任せればいいじゃないですか!何も香純さんがここまでする必要なんて…っ
楼 香純
楼 香純
その月宮団さえも上手く烏丸革命隊の情報を掴めてないの。存在は知っているけどどこで息を潜めているなんてことも明確にわからない。
諸星 明日香
諸星 明日香
え…?
楼 香純
楼 香純
それを私があまりにも大胆不敵に単独で悪事を暴こうとしている。それは、隠れているつもりのやつらをびびらすため。なのに幕府はそんな私のことさえも京の敵と勘違いして月宮団に指示して追わせている。
諸星 明日香
諸星 明日香
じゃあ、香純さんは決して尊皇攘夷派ではないんですね。
楼 香純
楼 香純
まぁね。そんなこと関係無しに生きているから。
諸星 明日香
諸星 明日香
そうなんですか…月宮団は香純さんにとって天敵…ということですか?
楼 香純
楼 香純
えぇ。…って、ごめんなさいね明日香。信じがたいわよね。
諸星 明日香
諸星 明日香
は、はい。…ですから、私からも質問いいですか?
楼 香純
楼 香純
何?
諸星 明日香
諸星 明日香
…香純さんも、京の人じゃないですよね…
静かにそう聞くと、香純さんはそっと笑った。
楼 香純
楼 香純
…あら、バレちゃった?
諸星 明日香
諸星 明日香
さっきから郭言葉やなくなってて、それで気づきました…まるで違和感がなくて。なんで教えてくれなかったんですか…。
楼 香純
楼 香純
本当はずっと教えようとしていたのよ。
諸星 明日香
諸星 明日香
じゃあなんであずま言葉なのか、今教えてくださいよ!
楼 香純
楼 香純
教えるもなにも、東の人間だからに決まってるじゃない。
諸星 明日香
諸星 明日香
嘘はやめてください。
楼 香純
楼 香純
ふふ❤そーね、もうひとつ理由をつけるとしたら…私はこの街で今日を生きる宿命があるから、とでも言っておこうかしら。
諸星 明日香
諸星 明日香
…ぜっぜんわからないんでもういいです。
そういって私は右の掌を香純さんに見せる。香純さんはクスクスと笑った。
…本当に、この人は謎が多すぎる。
楼 香純
楼 香純
そうそう。さっき私に会ったとき、刀持ってたわよね?どうして?
諸星 明日香
諸星 明日香
あぁ、謎のくノ一が出たぁって騒ぎがあったから私も参戦しようとしたんです。
私は床に置いていた刀を手にとって見せた。
すると香純さんはびっくりした顔で「あら?」と刀を受けとる。
楼 香純
楼 香純
これって…この刀、もしかして優心くんのものじゃないかしら?
諸星 明日香
諸星 明日香
優心くん…て、誰ですか?
楼 香純
楼 香純
十五郎さんの息子さんよ。いたずらっ子で活発な男の子なの。それに、優心くんは十五郎さんに憧れていて、将来この街を守る武士になりたがっているの。他の同い年の子供たちに比べて人一倍努力家で剣術の意識が高いのよ。
諸星 明日香
諸星 明日香
はぁ…。じゃあすぐに帰さないと心配するんじゃあっ…!
楼 香純
楼 香純
それなら優心くんの家を知っているから明日にでも一緒に返しに行きましょう。ねっ。
諸星 明日香
諸星 明日香
はい!ありがとうございます!
そうして私はその日、遊郭に泊まった。

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