第28話

番外編『菓子の料理番』
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2018/11/30 12:46
それは、私が遊郭の仕事が休みの日だった昼過ぎのことだった。

台所から甘い美味しそうな匂いがしてきた。
諸星 明日香
諸星 明日香
九十九さん?
台所を除くと、九十九さんが砂糖やら卵やらを並べて何か作っていた。
九十九 京助
九十九 京助
諸星か。
諸星 明日香
諸星 明日香
何を作ってらっしゃるんですか?
九十九 京助
九十九 京助
“カステイラ”だ。
諸星 明日香
諸星 明日香
カステイラ?最近流行りの南蛮菓子ですか...って、九十九さん作れるんですか!?
九十九 京助
九十九 京助
まぁな。先日から白夜が風邪をひいているから、何か菓子でも作ってやろうと思ってな。
諸星 明日香
諸星 明日香
どこで覚えたんですか?
九十九 京助
九十九 京助
昔、俺は吉原の料理番をしていてな。そこで有名な戯作者である十返舎一九じっぺんしゃいっくが刊行した『餅菓子即席手製集もちがしそくせきてせいしゅう』をみて自ら学んだ。
たしか、九十九さんは吉原の遊女と商人の間に生まれ育った遊女の子だと以前聞いたことがある。
まさか、吉原で料理番をしていたなんて。

でも、前に九十九さんと一緒に隊士たちの朝食を作ったことがあったけど、煮物の切り方が不慣れだったような...。
九十九 京助
九十九 京助
...言っておくが、俺はあくまで“菓子”の料理番だ。それ以外は作らなかった。
九十九さんは私の疑問を悟ったかのように言った。
なるほど、つまり菓子は作れるけど普通の料理は不得意だ、ということか(?)
すると、ハルくんが台所へ顔を出した。
金城 春正
金城 春正
うぉぉっやっぱり!美味そうな匂いがしてると思ったら九十九っつぁんが菓子を作ってたんだな!
九十九 京助
九十九 京助
ハル。これは白夜のものだから...っ
食べるな、と言いかけたときは遅かった。
ハルくんは幸せそうにカステイラのひと切れをつまんで口の中に運んだ。
金城 春正
金城 春正
ん~!やっぱり九十九っつぁんの作るカステイラはうめぇな!!
九十九 京助
九十九 京助
勝手につまみ食いをするのではない。今から稽古に行くんだろ。さっさと行け。
金城 春正
金城 春正
へいへい。おかげで頑張れそうだよ!ありがとな!
そう言うとハルくんは道場へ向かった。
九十九 京助
九十九 京助
...全く。
諸星 明日香
諸星 明日香
ははは、ハルくんらしいですね。
九十九 京助
九十九 京助
...ほら。あんたも食え。
そう言って九十九さんはカステイラのひと切れを差し出した。
諸星 明日香
諸星 明日香
で、でも、つまみ食いはいけないって...
九十九 京助
九十九 京助
いいから食え。美味いぞ。
諸星 明日香
諸星 明日香
じ、じゃあお言葉に甘えて...
そっと手にとって口の中に入れた。
甘くてふわふわした食感が口に広がる。
諸星 明日香
諸星 明日香
...美味しい!
九十九 京助
九十九 京助
そうか。ならよかった。...あんたやハルのように幸せそうな顔をされたら、つまみ食いがどうのより、嬉しい気持ちの方が強くなる。そしてまた作ってやりたいと思ってしまう。
諸星 明日香
諸星 明日香
そうですね。白夜さんもきっと喜ばれますよ!
九十九 京助
九十九 京助
...そうだな。はやく持って行ってやろう。
そう言って私と九十九さんは白夜さんの部屋に向かった。
白夜 和丸
白夜 和丸
お、九十九じゃねぇか!俺のために作ってくれたのか!
九十九 京助
九十九 京助
あぁ。お前は甘いものが好きだからな。
白夜 和丸
白夜 和丸
ありがとよ!知ってっか明日香ちゃん、九十九はいつもこうして体調を崩したり東堂さんに叱られて拗ねたりしてる隊士にこっそり菓子を作ってくれるんだぜ!
九十九 京助
九十九 京助
今回は風邪だが、白夜にこうして菓子を作ってやるのは大抵副団長に叱られたときだ。
諸星 明日香
諸星 明日香
ははは!優しいんですね、九十九さんは。
九十九 京助
九十九 京助
そう思われたくて作っているのではない。俺は自分の作った菓子で人に幸せを与えたいという気持ちからだな...
白夜 和丸
白夜 和丸
気にすんなよ明日香ちゃん!こいつ、明日香ちゃんに優しいって言われて照れてるだけだから!
諸星 明日香
諸星 明日香
え?
九十九 京助
九十九 京助
照れてなどいない。
白夜さんはカッカッカッと笑った。
白夜さんの部屋からでると、私は九十九さんに問いかけた。
諸星 明日香
諸星 明日香
あの、九十九さん。私にもぜひ菓子の作り方を教えてくださいませんか?
九十九 京助
九十九 京助
...別に構わないが、また俺が非番の日に頼む。
諸星 明日香
諸星 明日香
もちろんです、お時間があれば教えてください!
九十九 京助
九十九 京助
承知した。
そう言って九十九さんは優しく口許を綻ばせた。


こんな平和な時間、ずっと続けばいいのにな...。

そんな思いを馳せた、爽やかな心地よい風が吹く、夏の頃。



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(※番外編では、明日香が屯所を離れる前の約3ヶ月のちょっとした小話を書いています。本編とは関係が無いので本編で死んでしまった隊士も普通に登場します。著者も気休め程度でたまに書いていきます(笑)また、リクエスト等ありましたらぜひコメントよろしくお願いします!)

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