それは、私が遊郭の仕事が休みの日だった昼過ぎのことだった。
台所から甘い美味しそうな匂いがしてきた。
台所を除くと、九十九さんが砂糖やら卵やらを並べて何か作っていた。
たしか、九十九さんは吉原の遊女と商人の間に生まれ育った遊女の子だと以前聞いたことがある。
まさか、吉原で料理番をしていたなんて。
でも、前に九十九さんと一緒に隊士たちの朝食を作ったことがあったけど、煮物の切り方が不慣れだったような...。
九十九さんは私の疑問を悟ったかのように言った。
なるほど、つまり菓子は作れるけど普通の料理は不得意だ、ということか(?)
すると、ハルくんが台所へ顔を出した。
食べるな、と言いかけたときは遅かった。
ハルくんは幸せそうにカステイラのひと切れをつまんで口の中に運んだ。
そう言うとハルくんは道場へ向かった。
そう言って九十九さんはカステイラのひと切れを差し出した。
そっと手にとって口の中に入れた。
甘くてふわふわした食感が口に広がる。
そう言って私と九十九さんは白夜さんの部屋に向かった。
白夜さんはカッカッカッと笑った。
白夜さんの部屋からでると、私は九十九さんに問いかけた。
そう言って九十九さんは優しく口許を綻ばせた。
こんな平和な時間、ずっと続けばいいのにな...。
そんな思いを馳せた、爽やかな心地よい風が吹く、夏の頃。
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(※番外編では、明日香が屯所を離れる前の約3ヶ月のちょっとした小話を書いています。本編とは関係が無いので本編で死んでしまった隊士も普通に登場します。著者も気休め程度でたまに書いていきます(笑)また、リクエスト等ありましたらぜひコメントよろしくお願いします!)
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。