…え?
私は頭の整理が追い付かず、目を瞬きながら浬さんの顔を見つめた。
浬さんはどこか切なげに、でも下方に目をやりながらもその瞳は美しさの中にどこか迫力があるような、力強ささえ感じた。
すると浬さんは少し周囲に目を向けてから、こう言った。
そう言って浬さんに一礼してから私は襖をそっと閉めて二階の寝室部屋へ戻った。
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浬は明日香が部屋に戻って行ったのを確認すると、突然腰の刀を抜き、さっと反対側の襖をあけ、そこにいたある人物の喉元に刃先を向けた。
そしてその相手に鋭い目付きと憎悪の顔をして睨み付けた。
そこにいたのは-
裕道だった。
裕道は少し口角をあげて言った。
そう言って裕道は腰の刀に手を触れる。
すると浬はさっきまで突き刺していた刀を静かに閉まった。
すると浬は下を俯きながら呟くようにして言った。
すると裕道は迷う素振りもなく即答で答えた。
一瞬、驚いたように目を見開いた浬だが、静かに「...そうか。」と呟いた。
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翌日。
遊郭から戻ると、屯所は何やら騒がしかった。
その理由は疑わしいような事情だった。
それは、佐幕派である我々月宮団の団長である十五郎さんの命が倒幕派の藩により狙われているという事だった。
私はしまの裾をぎゅとにぎって強く言った。
こんなこと、言ったってしまが聞かないことなんか分かってる...。
しまを余計に困らせるだけだってことも。
しまは切なげに笑顔を見せた。
そうして30分後。月宮団一同は後ろに大きく「志」と書かれた黄色と黒の羽織をまとい、戦場に向かった。
私はただひとり、静かな屯所の縁側に座り、赤い月を見ていた。
すると、中から多賀良(たから)さんが出てきた。
多賀良さんは月宮団の書記のような役目の方で、優しく朗らかな60歳くらいの素敵な男性だ。若い頃は隊士であったが現在は今回のような激しい戦には出ず、誰も居ない屯所の留守番を頼まれているらしい。
すると突然足音がして、黒の服装に身を包んだまるで忍びのような格好をした男が私たちの前にやってきた。そして片足を膝につけ、立てている方の足に手を置いた。
なんだ、出雲くんか...。
伝令の仕事をこなす時はこんなかっこいい格好するんだ...。なんかギャップ(?)に心がやられる。
たしか、本命の朱紗屋ともうひとつ疑わしいとされた駒井屋の二手に分かれたんだ。
駒井屋には、東堂さん、金城さん、染川さん、浬さん、九十九さんの5人の幹部がいるのだ。
確率的に低いと思われていた朱紗屋には十五郎さん、緋山さん、しまと白夜さんの4人しか幹部はいないのだ。(その他数十人の後衛隊士)
この人数の上に標的となっている十五郎さんがいる軍となると厳しい。
不安で頭が真っ白になりそうだ。
私と出雲くんは頷いて、走り出した。
《朱紗屋》
倒幕派の藩の武士が2階から顔を出し、あたりを確かめてからそっと窓を閉めた。
その下の細い道に息を潜める隊士達。
裕道は明日香の顔を想像させて拳をぎゅっと握りしめた。
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そう言って私と出雲くんは別れてそれぞれの店に走った。
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私は急いで朱紗屋に向かった。
すると道の途中で、何やら怪しい武士達と目があった。
そう言って3人の武士達は一斉に刀を抜く。
私も腰につけた刀を両手でしっかり握りしめた。
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《駒井屋》
すると後ろから「伝令!」という出雲の声が聞こえた。
出雲は息をきらしながらはっきりと言った。
隊士達は頷き、走り出した。
長くて紅い宵月の悲劇は続くのだった-。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。