明かりが差して顔を見ると、男はあのしまだった。
そう言って笑顔を見せるしま。
5年も経つとやっぱり身長も声も顔付きもみんなだいぶ変わったけど...
優しい笑顔だけは変わらなかった。
まって、それって私に会いたかったってこと...?
そんなはずない!私自意識過剰すぎる!
なんだか顔が熱い。
意地悪っぽく言うしま。
無意識に出た言葉に自分でも戸惑いが隠せない。
やばいやばい。
変な空気だぁー!!
なんて焦っている時だった。
凛太朗が割り込んできて彼の無神経パワーのおかげで変な空気奪還に成功した!
ナイス凛太朗っ!
凛太朗の無神経さに呆れて困り果てるしまの顔も久しぶりにみてつい笑みが零れる。
彼のこうゆうところが可愛いと思ってしまうからだ。
そうして私たちは昔から通っている逢坂道場に向かった。
数分歩いてその扉を開ける。
すると奥から見かけない若い男性が出てきた。
高身長のイケメンで20代前半だろうか、こんな人、道場にいたっけ?
この間、逢坂先生と母が立ち話していて母が道場に忘れて帰ったものを送ってくれた御礼の品、として団子を渡した。
少し落ち込んでいると、雨宮先生が口を開いた。
優しく微笑みかける雨宮先生に、いろんな意味でドキッとした。
凛太朗は自信に満ち溢れたかのように明るくなった。
一方しまは今にも帰りたそうな顔をしている。
低い声で睨みながら雨宮先生につきはなった。
どういう意味だろう?
と、優しく言った。
私にもとくに意味はないと思った。しまは何を考えているんだろう?
どうしてそう上から目線なんだろう。反抗的なしまの態度にも雨宮先生は優しい笑みで「ありがとうございます」と言った。
順番は凛太朗、私、しまの順番だ。
一回戦。凛太朗は合図と同時に踏み出す。
凛太朗は一心不乱に竹刀を降る。久しぶりにみた凛太朗の戦う姿は昔よりも断然逞しく男らしくなっていた。程よくついている腕の筋肉も、少し焼けた肌も、凛太朗の成長が見れて私は少し口許を綻ばした。
この愛想のないしまの相槌も話している時はみんなこうだ。少し慣れたもの。
そうこうしていると雨宮先生は凛太朗のすきをみて手元の竹刀をはじき飛ばした。凛太朗は何が起きたのか把握できず、いつの間にか竹刀が手元になかったことに目を丸くした。
私も思わず手を口にあて、唖然としていた。目にもとまらぬ速さだった。
先生は申し訳なさそうに言った。
凛太朗は目を輝かせた。
2回戦目は私だ。チラッとしまをみてみると、しまはずっと雨宮先生のことばかりみている。
私はそう言うと前に踏み出す。床の木のフローリングに裸足で歩く。ひんやりと冷たい感触がした。
タンっタンっと竹刀と竹刀が叩き合う音が道場に響く。
私が振りかぶろうとしたとき、手に乾いた音がした。
-え?何が起きたの?
にこりと微笑む雨宮先生に凛太朗も目を丸くした。唖然と立ち尽くす私の横でむくっとしまは立ち上がった。
静かに言い放ち、竹刀を手にすると背筋を正して構えた。
すると雨宮先生はしまに言い放った。
「それでは僕も。」と雨宮先生も構えた。
すると雨宮先生は物凄いスピードで攻める。しまはそれに冷静に対応する。雨宮先生はさっきと打って変わって人が変わったようだ。しまには手加減しないつもりなんだろう。
あまりにもハイレベルな戦いに私と凛太朗は声援の声も忘れて見入っていた。
しまはきっと江戸でも沢山研いたのだろう。
5年前に比べるとものすごく上達している。
かれこれ5分たっても決着はつかない。
私は2人の試合をみて何か違和感を感じた。
しまのやり方はひとつひとつに無駄がなく、かつ的確な戦法。
雨宮先生もそうではあるけど...
その時、しまが振り落とした竹刀を既のところで手でとめた。
しまは目を見開く。
もうどっちが先生か分からない立場の違う差に呆れるばかりだ。
そして翌日の夕暮れ。
私はしまと、大阪の町で散歩した。
小さな小川にさしかかったところで、しまは足をとめた。そして口を開けた。
さっきと変わってすごく真剣そうな眼差しで見詰めるしまの表情に胸が騒ぐ。
こんな必死になっているしまをかつて見たことあるだろうか。
よっぽどお世話になっているんだろうな。
急に顔を近ずいて心臓がバクバクする。不意打ちはあかんて...!
...何その微妙な数。短いのか長いのかよく分からない。
そうして私は母に許可をもらい、京都に行くことになった。
そのことは、もちろん凛太朗にもしまと伝えに行った。
そう言ってニカッと笑顔をみせた。
明日香は先に歩き出すと、凛太朗が低い声で「しまっ」と裕道を呼び止めた。
並んで歩き出す2人の背中を凛太朗はどこか切ない目で見つめた。
そうして私としまは京都に向かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。