第2話

「以心伝心」
367
2018/11/03 12:23
明かりが差して顔を見ると、男はあのしまだった。
諸星 明日香
諸星 明日香
しまぁっ!!久々やな!!元気してた!?
島津 裕道
島津 裕道
まぁな!それより、怪我はないか?
諸星 明日香
諸星 明日香
平気やで!助けてくれてありがとう!しまが帰ってくるって聞いて急いで門に向かってたらあの人らに絡まれてん。
島津 裕道
島津 裕道
ったく。偶然尊王攘夷派の烏丸革命隊に出会うなんて、お前はほんとついてねぇな。その腰に付けている刀は飾りか?
諸星 明日香
諸星 明日香
あ、これ家を出る時に団子屋によっててん。ほんでついでに逢坂先生に稽古つけてもらお!って思ってたからたまたま持ち歩いてて...。いつもは持ってへんで。
島津 裕道
島津 裕道
ここは江戸に比べて治安がいいと思って安心してたけど、さっそく刀を抜くハメになって気が抜けないと言うか。...まぁとにかく、お前が無事でよかったよ。元気そうでなによりだ。
そう言って笑顔を見せるしま。
5年も経つとやっぱり身長も声も顔付きもみんなだいぶ変わったけど...
優しい笑顔だけは変わらなかった。
島津 裕道
島津 裕道
俺もさっき帰ってきてさ、ちょうどお前に会いに行こうと思っていたところだったんだ。
諸星 明日香
諸星 明日香
えっ...?そうなん?
まって、それって私に会いたかったってこと...?
そんなはずない!私自意識過剰すぎる!
なんだか顔が熱い。
島津 裕道
島津 裕道
どうかしたか?
諸星 明日香
諸星 明日香
えっ?な、なんでもないって!そ、それにしても身長伸びたなぁ~っ!知らん間に追い抜いてもーてる...
島津 裕道
島津 裕道
お前はあんま変わってねぇな。あ、でもちょっと太ったか?
意地悪っぽく言うしま。
諸星 明日香
諸星 明日香
嘘やん?
島津 裕道
島津 裕道
ははっ!冗談だよ。
諸星 明日香
諸星 明日香
なんやのもぅ。...それにしても、ほんま助かった。昔と比べもんにならんくらい強なったな。かっこよかった...
無意識に出た言葉に自分でも戸惑いが隠せない。
諸星 明日香
諸星 明日香
ええっと...その
やばいやばい。
変な空気だぁー!!
なんて焦っている時だった。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
おっ!こんなところにおったんかー!!探したやんかしまー!
島津 裕道
島津 裕道
凛太朗。
凛太朗が割り込んできて彼の無神経パワーのおかげで変な空気奪還に成功した!
ナイス凛太朗っ!
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
なんや、明日香もおったんや!よかったなしま!明日香にあえて!
諸星 明日香
諸星 明日香
え?
島津 裕道
島津 裕道
おい凛太朗っ
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
いやな、門で会うた時、「明日香にも久しぶりに会いたい」って言うさかい顔見せにいけって言うたんや!
諸星 明日香
諸星 明日香
そそ、そうなん
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
せやからまた会えてよかったな!
島津 裕道
島津 裕道
余計なことを...
凛太朗の無神経さに呆れて困り果てるしまの顔も久しぶりにみてつい笑みが零れる。
彼のこうゆうところが可愛いと思ってしまうからだ。
島津 裕道
島津 裕道
つか、お前道場に稽古つけてもらいにいくんだっけ。暇だし俺も行っていいか?
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
俺も俺も!!
諸星 明日香
諸星 明日香
ええよ!ほんなら3人で行こか!久しぶりに先生も顔みたいやろし!
そうして私たちは昔から通っている逢坂道場に向かった。
数分歩いてその扉を開ける。
諸星 明日香
諸星 明日香
失礼します、逢坂先生ー!明日香でーす!
逢坂 紋吉
おー明日香か。その者は?
諸星 明日香
諸星 明日香
何言うてはるんですか!しまです!久しぶりに帰ってきたんですよ!
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
まぁ俺は1ヶ月半くらいサボってたけど
逢坂 紋吉
おおー!本当かね!確かによくみたら面影があるのぉ!
島津 裕道
島津 裕道
ご無沙汰しております。先生もお元気そうで。
すると奥から見かけない若い男性が出てきた。
高身長のイケメンで20代前半だろうか、こんな人、道場にいたっけ?
諸星 明日香
諸星 明日香
あの、先生、そちらの男性は?
逢坂 紋吉
こちらは雨宮純平君だ。最近入ってきた新米くんでな、わしの弟子じゃ。
雨宮順平
雨宮順平
初めまして、雨宮純平です。3人の噂は聞いてますよ。とくに島津君は凄い腕を持ってらっしゃる実力者だとか。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
そや!しまはこの町に誇るヒーローみたいなもんですわ!
島津 裕道
島津 裕道
凛太朗。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
ええやんか!ほんまのことなんやし!
島津 裕道
島津 裕道
ったく。話の盛りすぎにも注意しろっての。
諸星 明日香
諸星 明日香
あ、そうや先生、これ団子です!この前母がお世話になりました。
この間、逢坂先生と母が立ち話していて母が道場に忘れて帰ったものを送ってくれた御礼の品、として団子を渡した。
逢坂 紋吉
いやぁ、悪いね。
諸星 明日香
諸星 明日香
いえいえ。ついでと言うか、せっかくなので稽古つけてもろていいですか!!
逢坂 紋吉
あぁ、申し訳ないが、わしはこれから少し出かけなければならないのじゃ。悪いな明日香。
諸星 明日香
諸星 明日香
そうですか...それは仕方ないですね。
少し落ち込んでいると、雨宮先生が口を開いた。
雨宮順平
雨宮順平
それでは、僕が代わりにいいですか。
諸星 明日香
諸星 明日香
えっ?
雨宮順平
雨宮順平
師匠にはとても及びませんが、ちょっとした相手にはなるかと。それとも、つまらないと思われるのでしたら話は別ですが。
優しく微笑みかける雨宮先生に、いろんな意味でドキッとした。
諸星 明日香
諸星 明日香
はい、ぜひお願いします!
雨宮順平
雨宮順平
お二人は?
島津 裕道
島津 裕道
俺、逢坂先生に会いに来ただけだから。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
おっ、俺はいいっす!
諸星 明日香
諸星 明日香
なんやの二人とも!ノリ悪いなぁ。
雨宮順平
雨宮順平
では、3対1のゲーム戦と行きましょうか。
諸星 明日香
諸星 明日香
ゲーム戦?
雨宮順平
雨宮順平
はい。明日香さん、凛太朗君、島津君の3人で僕を1人でも勝つことが出来れば君たちの勝利としましょう。
諸星 明日香
諸星 明日香
面白そう!いいですね!
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
よし!受けて立つ!
凛太朗は自信に満ち溢れたかのように明るくなった。
一方しまは今にも帰りたそうな顔をしている。
雨宮順平
雨宮順平
島津君は如何なさいますか?
島津 裕道
島津 裕道
...お前、そこまでして俺らと戦う理由はなんだ。
低い声で睨みながら雨宮先生につきはなった。
どういう意味だろう?
雨宮順平
雨宮順平
とくに深い意味はありませんよ。ただの力試しです。とまぁ、強いと評判の君たちと一度手合わせしてみたかったことも一理ありますが。
と、優しく言った。
私にもとくに意味はないと思った。しまは何を考えているんだろう?
島津 裕道
島津 裕道
...ならいい。引き受けてやる。
どうしてそう上から目線なんだろう。反抗的なしまの態度にも雨宮先生は優しい笑みで「ありがとうございます」と言った。
順番は凛太朗、私、しまの順番だ。
一回戦。凛太朗は合図と同時に踏み出す。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
だぁぁっ!
凛太朗は一心不乱に竹刀を降る。久しぶりにみた凛太朗の戦う姿は昔よりも断然逞しく男らしくなっていた。程よくついている腕の筋肉も、少し焼けた肌も、凛太朗の成長が見れて私は少し口許を綻ばした。
島津 裕道
島津 裕道
何笑ってんだよ。
諸星 明日香
諸星 明日香
あぁいや、凛太朗も男らしくなったなぁって
島津 裕道
島津 裕道
ふぅん。そんなの分かるんだな。
諸星 明日香
諸星 明日香
分かるよ。小さい頃からずっと一緒だもん。
島津 裕道
島津 裕道
へぇ。
この愛想のないしまの相槌も話している時はみんなこうだ。少し慣れたもの。
そうこうしていると雨宮先生は凛太朗のすきをみて手元の竹刀をはじき飛ばした。凛太朗は何が起きたのか把握できず、いつの間にか竹刀が手元になかったことに目を丸くした。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
嘘やろ、いつの間に...
私も思わず手を口にあて、唖然としていた。目にもとまらぬ速さだった。
島津 裕道
島津 裕道
勝負、あったみたいだな。
雨宮順平
雨宮順平
すみません凛太朗くん、少々大人気なかったですね...
先生は申し訳なさそうに言った。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
大丈夫っす!すげぇ強くてびっくりしました!
凛太朗は目を輝かせた。
2回戦目は私だ。チラッとしまをみてみると、しまはずっと雨宮先生のことばかりみている。
諸星 明日香
諸星 明日香
お願いします!
私はそう言うと前に踏み出す。床の木のフローリングに裸足で歩く。ひんやりと冷たい感触がした。
タンっタンっと竹刀と竹刀が叩き合う音が道場に響く。
諸星 明日香
諸星 明日香
やぁぁっ!!
私が振りかぶろうとしたとき、手に乾いた音がした。



-え?何が起きたの?
雨宮順平
雨宮順平
すきありっ☆でしたね。
にこりと微笑む雨宮先生に凛太朗も目を丸くした。唖然と立ち尽くす私の横でむくっとしまは立ち上がった。
島津 裕道
島津 裕道
こんな新米野郎に二人ともあっさり負けやがって...。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
次、しまが勝たねぇと負けやねんで!しま!頼むで!
島津 裕道
島津 裕道
ったく、たかが稽古ごときで変なプレッシャーかけんなよ。
雨宮順平
雨宮順平
島津君、別に僕が降参してあげてもよろしいのですよ。
島津 裕道
島津 裕道
...どっちが。
静かに言い放ち、竹刀を手にすると背筋を正して構えた。
島津 裕道
島津 裕道
さぁ、どっからでもかかってきやがれ。
すると雨宮先生はしまに言い放った。
雨宮順平
雨宮順平
...左肩をさらけたし、切っ先は後方下段。柳生新陰の一刀両断の構えですか。
「それでは僕も。」と雨宮先生も構えた。
島津 裕道
島津 裕道
天然理心流...平晴眼の構えだな。刀身をやや傾け、その切っ先は相手の左目を狙っている。
雨宮順平
雨宮順平
あなたのその実力、試させていただきます!
すると雨宮先生は物凄いスピードで攻める。しまはそれに冷静に対応する。雨宮先生はさっきと打って変わって人が変わったようだ。しまには手加減しないつもりなんだろう。
あまりにもハイレベルな戦いに私と凛太朗は声援の声も忘れて見入っていた。
しまはきっと江戸でも沢山研いたのだろう。
5年前に比べるとものすごく上達している。

かれこれ5分たっても決着はつかない。
私は2人の試合をみて何か違和感を感じた。
しまのやり方はひとつひとつに無駄がなく、かつ的確な戦法。
雨宮先生もそうではあるけど...

諸星 明日香
諸星 明日香
剣道...って言うより、斬り合いみたい...。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
斬り合い?
諸星 明日香
諸星 明日香
うん。あくまで直感やけど雨宮先生、まるで侍みたいに迫力あると思わん?
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
まぁ、二人ともめっちゃ上手いとは思うけど...
その時、しまが振り落とした竹刀を既のところで手でとめた。
しまは目を見開く。
雨宮順平
雨宮順平
ここまでにしましょうか。今回は引き分けと言うことで。また別の機会に。
島津 裕道
島津 裕道
...ま、いいだろう。次やるときはもっと腕を上げとかねぇと俺に勝てねぇだろうしな。
雨宮順平
雨宮順平
はい。努力します。
もうどっちが先生か分からない立場の違う差に呆れるばかりだ。
そして翌日の夕暮れ。
私はしまと、大阪の町で散歩した。
島津 裕道
島津 裕道
やっぱり大阪はいいな。
諸星 明日香
諸星 明日香
そうやんな。住民もみんな優しいし。
小さな小川にさしかかったところで、しまは足をとめた。そして口を開けた。
島津 裕道
島津 裕道
...なぁ、明日香。お前に言いたいことがあるんだけど...
諸星 明日香
諸星 明日香
何?
さっきと変わってすごく真剣そうな眼差しで見詰めるしまの表情に胸が騒ぐ。
島津 裕道
島津 裕道
あのさ...俺と、京都に行ってくれねぇか?
諸星 明日香
諸星 明日香
え?どうしたん急に?
島津 裕道
島津 裕道
俺の知り合いが島原にいてさ、仕事の手伝いを頼まれているんだ。頼む!一緒に来てくれ!
諸星 明日香
諸星 明日香
で、でも、その知り合いはしまに頼んだんやろ?私が行く必要ないやん...
島津 裕道
島津 裕道
ほら、京都ってこっから遠いだろ?俺一人だと寂しいだろうからって友達1人までなら面倒見てくれるって言ってくれたんだ!凛太朗にしようかなって思ったんだけど、凛太朗は団子屋で忙しいから離れられないそうなんだ。となったら、明日香しか居ないだろ!
諸星 明日香
諸星 明日香
そんな1人が怖いん?いっつも私ら置いていろんなとこ行っとったくせに?もっと他の理由あるんやろ
島津 裕道
島津 裕道
...まぁその知り合いが『女もいたらもっと助かるんだが若い女の知り合いが周りにいないから近くにいたら連れてきてほしい』って言われて、日頃お世話になっている人だから力になりたいんだ。だめか?全然悪い人じゃないし、めっちゃ優しくて朗らかな人なんだ!きっと仲良くなれる!なっ!?
こんな必死になっているしまをかつて見たことあるだろうか。
よっぽどお世話になっているんだろうな。
諸星 明日香
諸星 明日香
行きたくないわけじゃないんやけど...。
島津 裕道
島津 裕道
ほんとか?
諸星 明日香
諸星 明日香
ただ、この町から出たことないし京都まで行くってなったら長い間帰って来れへんのやろ?不安しかないねん。
島津 裕道
島津 裕道
大丈夫だ、俺がついてる。
諸星 明日香
諸星 明日香
っ...
急に顔を近ずいて心臓がバクバクする。不意打ちはあかんて...!
諸星 明日香
諸星 明日香
わかった。いくよ。
島津 裕道
島津 裕道
よし決まり!明後日出発だ。
諸星 明日香
諸星 明日香
明後日?!あっちに行くとどれくらいここに帰ってこれへんの?
島津 裕道
島津 裕道
そうだな...3ヶ月はいるんじゃねぇか?
...何その微妙な数。短いのか長いのかよく分からない。
そうして私は母に許可をもらい、京都に行くことになった。
そのことは、もちろん凛太朗にもしまと伝えに行った。
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
3ヶ月も!?
島津 裕道
島津 裕道
そんなのあっという間だって。
諸星 明日香
諸星 明日香
そうや!すぐまた会えるやん!
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
...って、引き止めたいところやけど、もう決まったことやもんな。たまには文なりよこせよ!!
そう言ってニカッと笑顔をみせた。
島津 裕道
島津 裕道
わかってるって。
諸星 明日香
諸星 明日香
ほな行こかしま。
島津 裕道
島津 裕道
あ、おぅ。
明日香は先に歩き出すと、凛太朗が低い声で「しまっ」と裕道を呼び止めた。
島津 裕道
島津 裕道
ん?
松浦 凛太朗
松浦 凛太朗
...明日香をたのんだで。
島津 裕道
島津 裕道
...あぁ。
諸星 明日香
諸星 明日香
しまー!行くでー!
島津 裕道
島津 裕道
わーったよ!
並んで歩き出す2人の背中を凛太朗はどこか切ない目で見つめた。




そうして私としまは京都に向かった。

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