自信満々な表情から一転、氷のような無表情を浮かべる自称神様。
やれやれと後ろ頭を掻きながら、その和服男は無遠慮に私のすぐ近くまで詰め寄ってくる。
不機嫌な表情のまま、ぐいぐいと迫り来る男。その強引さにかつて見た「とある光景」を思い出した私は……
咄嗟に男を両手で突き飛ばしていた。
僅かに震える手でスマホを取り出し、発信の準備をしてみせる私。これだけやれば流石に怯むだろうと思ったけど……
和服男は心底興味なさそうに、そううそぶいていた。
和服男が指差していたのは私が今まさに使おうとしていたスマホだった。
この人は私に何をさせたいのだろう。分からない。分からないけど……逆らえば何をされるか分かったもんじゃない。今ここで通報できたところで、警察が到着するまで何分もかかるだろうし、今は従うフリをするしかない。
私のスマホが映し出すのは大きな桜の木。何の変哲もない風景だった。
そう。そこにあるのはなんの変哲もないただの風景だった。
角度を変えて試してみたが変わらない。
私の持つスマホ、そこには……
目の前で意地の悪い笑みを浮かべる和服男。その姿が画面のどこを探しても存在しないのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。