春風を受けて和服男の髪が軽く揺れる。
私の目にはどこからどう見ても普通の人間に見える。
だけど……
私の返事を待たずに屋敷に戻っていく男。
その背中に手元のスマホを再び向けてみるが、
男の姿はどうしたってカメラに写ることはなかった。
◇◇◇
応接間にてテーブルを挟んで向かい合う私達。
緊張から自然と背筋の伸びる私に対し、男はだらりと姿勢を崩し、まさしく自分の家であるかのようにくつろいでいた。
私が鸚鵡返しに聞き返すと、男はこくりと頷いた。
簡単に言うと目の前の男は神様で、その力で私の家は金持ちになったと。
言葉にすると簡単だが、それを信じるとなると話は別だ。
あれ、今なんか妙なこと言われなかった?
一緒に暮らすとか、なんとか……
さっき会ったばかりの男といきなり同棲なんて普通に考えてあり得ない。しかも、相手は普通の人間ですらないのだ。不都合なんて言葉で片付けられるレベルの問題ではない。
しかも、なんか私がこの男の世話をするみたいな話になってるし。
あ、あれ? なんか……神様不機嫌になってない?
私が何と言って断ろうかと考えていると、自称神様は腕を組み独り言をぶつぶつと呟き始める。
ぱし、と膝を打った神様は立ち上がると私を見下ろしながら堂々と宣言する。
私にとって理不尽と言うしかない、その宣言を。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。